An Inside Story
Kosumaシャフト開発者インタビュー
ダンロップスポーツ 屋敷達也
プロが安心して振り切れるハイスペックシャフト
プロが求める「左に行かないこと」を最重要課題に開発スタート
Q.『Miyazaki』のプロ・上級者向けシャフトとしては3代目となる『Kosuma』ですが、開発はどんなことから始めたのでしょうか?
屋敷 これまでのモデルと同様、「Kosuma」はプロに使ってもらうのが大前提でした。そこで、プロが使うシャフトにはどんな性能が必要なのかをつかむために、まずプロにヒアリングすることから始めました。「シャフトに求める性能は?」という問いに対し、回答を複数挙げてもらったのですが、最も多かった答えは意外にも「飛距離」ではなく、「左に行かないこと」というものでした。練習場ではまっすぐ出ていても、試合になって力が入ると左に出ることがあるというのはよく聞く話です。たとえば、藤本佳則プロは「一度でも左に球が出たら、もうそのシャフトは使わない」というぐらい、左に行くのを嫌いますし、横峯さくらプロも同様のことを言っています。そのためKosumaの開発では、「左に行かないこと」を最も重要な課題としました。
Q.左に行かせないようにするには、技術的にどうすればよいのですか?
屋敷 まずトルクを小さくするという方法があるのですが、それについては先代モデルのKENAもある程度低トルクにしていたので、Kosumaでもそのまま踏襲しました。それに加えて、先端部分の剛性を従来より硬めに設定することを目指しました。先端が柔らかいと、インパクト前にシャフトが走りすぎる傾向があるからです。
Q.より遠くに飛ばすための工夫という点についてはいかがですか?
屋敷 ボールを遠くに飛ばすために、ダンロップが開発した「デュアルスピードテクノロジー」(以下、DST)という技術があります。これは、ヘッドスピードとボールスピードをともにアップさせて飛ばすというもので、このうちシャフトに関わるのが「ヘッドスピードアップテクノロジー」です。シャフトを手元重心化することによってクラブ慣性モーメントが減少し、振りやすくなることでヘッドスピードがアップするというこの技術を、Kosumaにも取り入れています。
トップアマのアドバイスを受け、キックポイントを明確化
屋敷 これまでは、社内の上級者と一部のプロにテストを依頼していたのですが、今回は、プロに近いフィーリングの持ち主にできるだけ多く評価してもらおうと、トップアマの皆さんにも実打テストをお願いしました。そのテストでは、やはり左に行かないシャフトを好む傾向が確認できました。実打テストをしては試作するという作業を繰り返しました。
Q.すると、開発は狙い通りに進んだわけですね。
屋敷 当初は順調だったのですが、去年11月の実打テストでは、メインスペックになる「Blue」(中調子)の結果が芳しくありませんでした。そこで、再度トップアマのみなさんに意見を聞いてみました。私が質問したのは「プロや上級者は、シャフトのどういう点を重視しているのか」「プレースタイルとシャフトの好みはどう関連するのか」といったことでした。その際、最初に言われたのが、「上級者とりわけハードヒッターは、キックポイントがはっきり分かったほうがよい」ということでした。また、「手元がしっかりしているほうが好まれる」とも言われました。
Q.それまでの試作品は、違ったということですか?
屋敷 はい。実は、KENAは中嶋常幸プロや渡辺司プロがドライバーに装着してツアーで優勝しましたが、一部のプロからは「スイング中に"暴れる"ことがある」という声も聞かれました。そのため「Kosuma」では、硬い部分と軟らかい部分で極端に差をつけないほうがよいと考え、それまでの試作品も、どちらかと言うと全体的にしなる設計にしていました。それを、硬さにメリハリをつけ、たとえば中調子のBlueでも、より真ん中がしなる設計に微修正したのです。
素材の改良と独自技術により、先端の強度アップと手元重心化に成功
Q.しなる"ようにしながら安定感も出すというのは、技術として難しそうですね。
屋敷 はい。スイング中のシャフトの"しなり"は、シャフトの硬さの分布によって感じ方が変わるのですが、途中の硬さの変化が大き過ぎると、急にシャフトが走ったり、逆に下りて来ないと感じてしまうことが予想されます。そのため、できるだけ硬さの変化は小さくしつつも、先ほどお話しした理由でキックポイントをはっきりさせる必要がありました。それを実現するために、シャフトを構成する「プリプレグ」という炭素繊維と樹脂でできたシートのサイズを、かなり緻密に計算して配置しました。
屋敷 ハイブリッドプリプレグはKENAでも採用していましたが、「Kosuma」ではそれを改良し、炭素繊維の弾性をさらに高めました。それを使うことで、トルク自体はKENAと同等ながら、これまでねじり剛性の確保に必要だった材料を削減できたことで余剰重量が生まれ、剛性が必要な部分に充てることができました。
Q.それ以外に、「Miyazaki」シャフトとして新たに採用した技術はありますか?
屋敷 「ゼクシオ エイト」でも使っていますが、いちばん内側の層に「DSTストラクチャー」を採用しました。それによって先端部分の強度を高めることで肉厚を薄くでき、その分の余剰重量を、ヘッドスピードのアップに必要な手元重心化のために使うことができたのです。
Q.そうして完成した「Kosuma」ですが、ターゲットとして想定したプロたちの反応はいかがですか。
屋敷 吉田弓美子プロと木戸愛プロが、ともに8月中旬の「NEC軽井沢72ゴルフ」から使用して同じ6位タイに入賞したのですが、それぞれ「手元に近い部分でしなりを感じる」「シャフトが安定しているので思い切って振れて飛距離が伸びた」と、開発意図通りのコメントをしてくれています。男子でも、若手の秋吉翔太プロが7月のチャレンジトーナメントで、Kosumaを装着した『スリクソン Z745』ドライバーを使って優勝しました。男子プロへの本格的なフィッティング作業はこれからですが、プロが、ここぞという大事な場面で左に行くのを気にせずに思い切り振れるシャフトができたと思いますし、よりハイスペックなシャフトになったと自負しています。
屋敷 達也(やしき・たつや)
ダンロップスポーツ株式会社 グローバル商品開発本部
2009年SRIスポーツ(株)入社。以来、一貫してシャフト開発に携わり、2012年から「Miyazaki」シャフトの開発を担当。