An Inside Story
Mahanaシャフト開発者インタビュー
住友ゴム工業(株)スポーツ事業本部 長谷川宏
すべてのゴルファーが、速く、気持ちよく振れるシャフト
“プロ・上級者向け”からの脱却をめざし、ゼロから開発
Q.『Miyazaki Mahana』(以下、Mahana)は、今秋発売の「NEWスリクソン Zシリーズ」(以下、Zシリーズ)のウッドに標準装着されています。Mahanaは、このヘッドと組み合わせることを前提に開発されたのでしょうか?
長谷川 はい。Zシリーズの『Z785』『Z585』ドライバーは、“ゼロ スリクソン”というキャッチコピーの通り、まさにゼロから開発したモデルです。過去のスリクソンのクラブが、平均スコアでいえば70~90ぐらいで、ヘッドスピードが45m/sかそれ以上のゴルファーをユーザーとしてイメージしてきたのに対し、Zシリーズでは想定ユーザーをぐっと広げて、スコアは100以上、ヘッドスピードも40m/s足らずのゴルファーのみなさんでもやさしく打てるクラブを目指しました。そのため、それに装着するMahanaも、プロ・上級者だけでなく、アベレージゴルファーにも打っていただくことを考えました。
Q.「アベレージゴルファーでも打てる」というコンセプトは、たしか前モデル(Miyazaki Kaula)でも打ち出していたかと思います。
長谷川 その通りです。たしかに前モデルは、先々代のモデルにくらべれば、ユーザー層をより広く想定して開発しました。ただ、実際には、思い切れなかった部分があったといいますか、アベレージゴルファーが十分に使いこなせるシャフトにはなっていなかったように思います。そのためMahanaは、まさにゼロから開発することを目指しました。
Q.なるほど。すると、Mahanaの開発はどんなことから始めたのでしょうか?
長谷川 はい。われわれ開発の仕事は、現状分析から入るのが常で、今回もそこからスタートしました。具体的には、ユーザーとして想定するゴルファーのみなさんが、「スリクソンのドライバーに最も求めているものは何か?」を知ることから始めました。われわれ開発陣の中にはマーケティングチームもあり、そのメンバーと連携して、トップアマチュアを含めたアマチュアゴルファーにヒアリングを行いました。その結果からは、やはり「飛び」が外せない要素であることを確認できました。そのため、Zシリーズの開発では、これまでのプロ・上級者向けモデルというコンセプトから脱却し、「カッコよくて、振りやすくて、よく飛ぶ」、すなわち「見た目のよさ」「フィーリング」「飛距離性能」の3拍子が揃ったクラブを作り込もうと考え、シャフトも同じことを目指しました。
Q.先ほど「ゼロから開発」というお話がありましたが、その手法はこれまでとはだいぶ変わったということですか?
長谷川 はい。これまでは、前モデルがあって、その剛性分布を変えるなど、いわゆるチューニングしながら作るというやり方でした。それに対し今回は、重量、剛性分布、重心位置など、すべてにおいてゼロベースで考えましたし、スペックもゼロから見直しました。また、シャフトの開発では、タテ軸にキックポイント、ヨコ軸に重量をとったポジショニングマップを作成し、各スペックを位置づけますが、今回、ターゲットを大きく広げたことで、上級者からアベレージゴルファーまでを含めたマップを作る必要がありました。
Q.それは、かなり大変な作業だったのではないですか?
長谷川 そうですね(苦笑)。それに、当社はグローバルでモノづくりを進めていて、たとえば日本とアメリアとでは求められるスペックがまったく違います。そのため、日米それぞれでテストを重ねながら、日本人のスペックゾーンはこう、アメリカ人のスペックゾーンはこうというふうに、幅広いエリアの中から細かく丁寧に絞り込んでいきました。
ゼクシオで培ってきた飛ばしのテクノロジーを搭載したMahana
Q.では、Mahanaはどんなシャフトなのか、その特長をおしえてください。
長谷川 はい。新しいZシリーズのウッドのヘッドには、材質や構造にゼクシオのテクノロジーをふんだんに盛り込んでいるのですが、Mahanaにも、ゼクシオの飛ばしのテクノロジーを搭載しています。ご存じのようにゼクシオは飛びを第一に考えたクラブで、そのための技術に長けています。それはヘッドだけでなくシャフトも同じで、他メーカーとの比較でいえば、“より軽くて強い”シャフトを開発してきたと自負しています。ゼクシオの「MPシャフト」は、伝統的に中ほどの剛性を下げてやわらかくする“中ヘコミ”にしていて、これは歴代モデルを開発する過程で培われたノウハウなのですが、それが、振りやすくてヘッドスピードが上がる要因になっています。Mahanaも、同じような剛性分布にすることで、ヘッドスピードを上げるとともに振り心地がいいのが特長です。ダウンスイングで中ほどがしなり、インパクトではヘッドが返ってくれるイメージですね。
Q.Mahanaは“軽量シャフト”とうたっていますね。重量設定はこれまでのモデルよりかなり軽いのでしょうか?
長谷川 いえ、同じ50グラム台で比較して、前モデルよりわずか1グラム軽くしただけです。1グラムと聞くと、たったそれだけかと思われるかもしれませんが、実はこれは大きな違いで、先ほどの振り心地に大きく影響します。今回、S、SR、Rのすべてを1グラムずつ軽くしているのですが、それによりヘッド重量もバランスも変わるので、その調整はかなり微妙です。Mahanaは、アベレージゴルファーもターゲットにしているとはいえ、やはりスリクソンのクラブに装着するため、ヘッドスピードのアップは必須でした。軽くしたことでそれを実現することができました。
Q.シャフトでは、挙動の安定性も重要な要素です。軽くしつつ、それを実現するのは難しかったのではないですか?
長谷川 はい。そのため、重量は軽くしてヘッドスピードを上げつつ、剛性が必要なところはもたせるというチューニングを施しました。たとえば、ヘッドスピードの速いゴルファーの場合、振り心地を優先しすぎるとヘッドが暴れてしまいます。そのため、ユーザーテストを繰り返し行いながら、「ここまでならイケる」「ここまでやったらダメ」といったチューニングをしました。先ほどのポジショニングマップに関しても、極端なスペックを作ってテストをし、最終的なマップに落とし込んでいきました。
Q.その場合のチューニングというのは、たとえば肉厚を変えるなどの作業をするのですか?
長谷川 ええ。ただし、たんに肉厚を変えるだけでなく、硬さの異なるカーボンシートを重ね、その重ね方も部位に応じて変えています。それと、前モデルでは、巻く方向を変えたシートを組み合わせることで“つぶれ”を防いでいたのですが、Mahanaでは、シャフト軸に対し垂直方向に巻く「フープ層」のみを使い、それを最も外側の層に近いところに入れることで、軽くてもつぶれないシャフトに仕上げることができました。
Q.今回、多くのゴルファーにテストをされたと思いますが、テスターのみなさんの反応はいかがでしたか?
長谷川 ドライバーを評価する言葉に、「つかまりがいい」という表現がありますが、テストを重ねるにつれ、その言葉を聞く頻度が増えていったように思います。シャフトは、先調子、すなわち先を少しやわらかくするとつかまりやすくなると一般的に言われていますが、Mahanaもやや先調子にしています。テストでの弾道を見ても、ヘッドスピードにかかわらず、安定してドロー系の球が出る印象を受けました。
Q.では、最後に、Mahanaに興味があるというゴルファーのみなさんに、開発担当者としてのメッセージをお願いします。
長谷川 はい。ボールを遠くに飛ばすには、クラブトータルとしての性能がすぐれている必要があります。これまでのスリクソンのクラブは、「カッコいいけれど、上級者以外のゴルファーには難しい」というイメージがあったように思いますが、今回の、「NEWスリクソン Zシリーズ」は、クラブトータルとして、そのイメージから脱却できたと実感しています。「カッコいいし、使える」クラブという評価は、すでに各地の試打会でいただいていますので、ぜひ一度打ってみていただけるとうれしいですね。
より安定性を求めるゴルファーのためのカスタムシャフト
Miyazaki [KORI / MIZU / KIRI]
そして、「NEWスリクソン Zシリーズ」のウッドには、新開発のカスタムシャフト「Miyazaki MIZU/KIRI/KORI」も用意されている。
「Mahanaは、ヘッドの走り、すなわちヘッドスピードを出すことを重視していますが、Miyazakiはそれに安定性をプラスしています。剛性分布はMahanaと同じ中ヘコミではあるものの、中ほどをやや硬くしていて、それが安定感を生んでいます。ヘッドスピードが45m/s以上で、スコアが70~90のいわゆるコアユーザーの中には、球のわずかなバラつきにも敏感な方がいらっしゃいます。そういうゴルファーにはMiyazakiをおすすめします」(長谷川)
長谷川 宏(はせがわ・ひろし)
住友ゴム工業株式会社 スポーツ事業本部 商品開発部 クラブ技術グループ課長
1998年入社。これまで基礎研究を行う研究開発本部やクラブ技術開発セクションに所属し、一貫してシャフトの開発を担当。現在はスリクソンのウッドクラブのシャフト開発を手がける。