ストリングの重要さを探る

インパクトでボールに接触するのはストリングだけ!

テニスプレーヤーの多くの方は、ラケットの大切さを知っていると思います。でもテニスラケットって、「ラケットフレーム」と「ストリング」の2つの要素が揃って、初めて役に立つ道具となることを忘れてはいませんか?

テニスは「打球=ボールを打つこと」で成り立ちますが、打球を現象的に見れば「インパクト」です。インパクトでボールが接触するのは「ストリング」です。この現象に限って見れば、フレームは登場しません。もしもフレームに当たったら、それはもうミスショットです。

カーボン製の道具を使うことでは「釣り=フィッシング」と共通しています。釣り竿は大切な道具ではありますが、魚が喰いつくのは「竿」ではなく、糸の先に付いた「釣り餌」であり、その陰に潜む「釣り針」です。釣り人が考えるのは、糸の種類や針の種類、餌には何を付けるか? オモリはどのくらいか? 糸をどのくらいの深さまで落とすか? いわゆる「仕掛け」ということが、釣果を左右する重要な要素なのです。

テニスに置き換えれば、魚が喰いつく瞬間が「インパクト」であり、そのための仕掛けが「ストリングのセッティング」です。テニスにおいて、ストリングはまさに「打ち合いの最前線」であり、ストリングの重要性を理解するのとしないのとでは、大きな差となって結果に反映します。テニスという闘いにおいては、ストリングこそ、『最前線の武器』なのです。

1000分の4秒での違いを感じる「人間の感覚」のスゴさ

普段、何気なく打球を繰り返すラリーの中で、「インパクトの時間」について注目したことはありますか? それは、まさに「瞬間」で過ぎ去ってしまいます。どのくらいの「瞬間」かというと、一般的に「1000分の3~4秒」と言われていますし、筆者が過去に体験した「インパクトにおけるスーパースロー検証」でも、そのとおりでした。

1000分の4秒というのがどのくらいの速さか考えたことがありますか? 世界のジェット戦闘機の最高速度が、だいたいマッハ3弱です。これは時速約3600km/hであり、1メートルの距離を通り抜けるのにかかるのが1000分の1秒です。

このほんのわずかな一瞬に生じた現象について、「インパクトの時間が長く感じる」とか「球離れが速い」「一瞬包んでから弾き出す感覚がある」など、いろんなコメントを目にします。みんなが共通に感じるということは、「実際にそうなっている」……と考えるべきです。つまり我々人類には、そんな感覚が備わっており、ストリングの違い・テンションの違い・張り技術の違いを感じ取ることができ、その感覚が得た情報をもとに、打球時での調整をすることができるわけです。

スゴくありませんか! そんな人間の感覚にとって「ストリングはどれでも同じ」であるはずがありません。ストリングの開発は科学的に行なわれ、素材的・構造的なスペックが決められます。しかし、最終的な決定要素は「人間の使用感覚」です。

ストリングの違いは、プレーヤーの打球感覚だけでなく、「打球結果」という現実的な違いとなって表われます。どのタイプのストリングが、自分に適していて、どのスペックが自分のパフォーマンスを効率的に発揮させてくれるか? 究極的に言えば、ストリングこそ、プレーヤーにとってもっとも大切なパートナーなのです。

ストリングは「選んでから」がスタート

ラケットという一つの道具の中でも、それを構成する2つの要素「フレーム」と「ストリング」には、決定的な違いがあります。ともに工業製品ではありますが、フレームは購入されてから使用し終わるまで、基本的に手を加えられることはありません(カスタマイズは別と考える)。つまり、購入した時点ですべてが決まっているのです。

ところがストリングは、購入してから使用するまでの間に「張り=ストリンギング」という行程が必要となります。この張りという作業は「技術」です。技術には技術者の技量の差というものが介在します。

今日のストリンギングでは、高精度なマシンが使われますが、すべてを自動で行なってくれるわけではありません。フレームのセッティングの仕方、ストリングの留め方、結び方など、張りの精度についての技術的な違いがあります。

我々は張り替えを繰り返しながら、自分にとってどのストリングが適しているのかを探りつつ、どんなストリンガーをパートナーに選ぶべきかも考えていかなければなりません。ですから、ストリングは「選んでから」がスタートです。そこから、ベストへの追求が「始まる」のです。

エクスプロッシブツアーエクスプロッシブバイトエクスプロッシブスピンエクスプロッシブスピード
アイコニックタッチアイコニックオールアイコニックスピードシンセティックタフ
松尾高司
松尾高司氏

おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。
テニスアイテムを評価し記事などを書くとともに、
商品開発やさまざまな企画に携わってきたプロフェッショナル。