Q. まず、飛距離重視の『スリクソン Z-STAR XV』(以下、XV)についてお聞きします。今回の5代目モデルは、どんなボールにしようと考えたのですか?
神野 はい、今回XVの特徴でもある「飛び」にさらに磨きをかけようと考えました。それに加えて、松山プロが求める感性とマッチするボールを目指しました。松山プロは、「ボールに求める性能の50%以上はパットに関するもの」と言うくらい、パットの感性を重視しますが、その感性とはパットの“音”に関するものでした。よって「飛ぶ」「止まる」というような上級者用ボールに必要な要素をさらに進化させる技術開発とともに、松山プロがパットの時に求める“音”の実現も目指すという、今までやったことのないアプローチからの開発でした。
Q. パットの音ですか? 松山プロがパットで求める音とは、いったいどんな音なのでしょう?
神野 開発当初、プロから要望されたのは“澄んだ音”でした。では、澄んだ音とはどんな音なのか?そこでいろいろなボールをテストしてデータを取り、解析した結果、それが「高さ」と関連していることが分かりました。それまでは、音の「高さ」と「大きさ」は相関関係にあると考えたのですが、研究をするうちに、実はそうではないと。そこを突き詰めて試作ボールに反映させました。それをパットした松山プロからは「この音です!」と言ってもらえました。
パットでは素振りをしないという独特の感性をもつ松山プロにとって、音は打感とともにイメージどおりの距離を打つための大事な要素となる。
Q. なるほど。それで、松山プロからの要望の一つはクリアできたわけですね。では、XVの変わらないテーマである「飛び」の追求については何をしたのですか?
神野 今回、XVのためにこれまでの2層コアとは異なる、新2層コアを開発しました。
Q. その新しいコアは、これまでとどう違うのでしょう?
神野 2層あるコアのうち、インナー(内側)コアをかなり大きくして、アウター(外側)コアの硬度分布をフラットにしました。これまでコアについては、余分なスピンを減らすために「外剛内柔」化を進めてきたのですが、今回はそれに加えて、コアでもボールスピードを上げようと考えました。インナーコアの外剛内柔の度合いを上げつつ、外側のコアでボールスピードを上げるイメージですね。シミュレーションとフライトテストによって内外のコアのサイズを決め、その結果スピン量を増やさずにボールスピードを上げることができたのです。
Q. スピンコントロール重視のNEW『スリクソン Z-STAR』(以下、STAR)のコアは単層ですが、これも新開発ですね。
神野 全体的にさらに柔らかくしました。STARは、コントロール系ではあるものの、余分なスピンを減らすことを目指して開発を重ねてきました。今回も、硬度分布を新しくしたコアとその外側の中間層を組み合わせて硬度差をつけることで、さらにスピン量が減って飛距離の伸びにつながっています。
新たな構造の採用で、従来モデル(左)より9mm大きくなった新しいXVのインナーコア(右)。さらなる外剛内柔化とあわせ飛距離アップに貢献する。
Q. そしてディンプルも、XV、STARともに新しくなっています。
神野 はい、ディンプル担当チームが、すばらしいディンプルを作ってくれました。従来モデルとの違いは、数を324個から338個に増やし、一つひとつの面積均一度を高めた点です。ディンプルは大きすぎても小さすぎてもボールの周りの空気はうまく流れてくれないのですが、今回の新しいディンプルは弾道初期の空気抵抗を減らして高いボールスピードを維持し、さらに弾道頂点を過ぎたあとに揚力を高く保ってもうひと伸びすることがわかりました。新しいXVが圧倒的な飛びを実現しているとともに新しいSTARが他社のしっかりタイプのボールに負けないほど飛ぶのも、この新しいディンプルによるところが大きいと思います。
ディンプル設計に重要な役割を果たすITR(空力特性評価設備)。室内でボールを打ち出すことで、飛行中の弾道や空気抵抗などの変化を高い精度で計算、解析できる。
Q. 次に、上級者用ボールのもう一つの重要な開発テーマである「止まる」についてですが、今回はどのように進化したのでしょう?
神野 ウレタンカバー上のコーティングを従来モデルにくらべ13%ソフト化しました。表面を柔らかくして摩擦係数を上げればフェースにグリップし、それがスピン性能のアップにつながります。それを今回さらに進めました。このソフト化の効果がもっとも表れるのがフェアウェイでやや芝が噛んだ際のアプローチショットです。通常、クラブとボールのあいだに芝が挟まると摩擦力はガクンと下がるのですが、新しいコーティングによって高い摩擦力をキープでき、大幅なスピン量低下を抑制することができたのです。
歴代のXVとSTAR。サイドマークも変遷し、最新モデル(左端)はモデル名の前後に力強い黒の矢印をあしらっている。
Q. そうやってスペックが固まっていく中で、松山プロのパットの音以外の反応はいかがでしたか?
神野 何度もテストするうちに分かったのですが、松山プロは、軽々しく「飛ぶ」という言葉は口にしません(苦笑)。でも、最終段階のプロトタイプを打った時には「少し前に行くかな」と言ってくれました。それは最高の評価だと思っています。アプローチショットでのスピン性能の進化も感じてくれていて、「食いついてフェースに乗る」「ラフからでもスピン量が安定している」と。
Q. そうして完成した市販品と同スペックのプロトタイプに対する松山プロの感想は?
神野 はい。私が今年1月にアメリカに複数のプロトタイプを持参して、松山プロにラウンドテストをお願いしました。そして、数あるプロトタイプの中から、松山プロが「これがベストですね」と選んだのが、まさにXVのスペックだったのですが、そう決めて打った1発目のパー3のティショットがなんとホールインワンしたんです! そして、実戦で使い始めた2月の「ウェイストマネジメント・フェニックスオープン」でいきなり優勝。「このボールは縁起がいいな」と思いました(笑)。
新しいXVを実戦で初めて投入した「ウェイストマネジメント・フェニックスオープン」で優勝した松山プロ。日米合わせて年間5勝という快進撃はここから始まった。
Q. それはスゴいですね。それで、他のプロたちの評価はいかがでしたか?
神野 多くの選手が「飛ぶね」と、従来モデルとの飛びの違いを感じてくれました。飛距離に加えて、風に対する強さも実感しているようで、その声はPGAツアーの選手からも聞かれました。女子選手はSTARを選ぶプロが多いのですが、たとえば全 美貞プロは、ラウンドでテストして、「飛ぶし、グリーン周りですごくスピンが利く。すぐ使います」とスイッチして、その後1勝しました。
Q. 評価は非常に高いわけですね。最後に、開発担当者としてのNEW『スリクソン Z-STAR』シリーズへの評価を聞かせてください。
神野 本当にいいボールができたと思っています。これまでダンロップが蓄積してきた技術を使って、各チームとも良い連携で開発を進めましたし、それが松山プロの感性にもピタリと合いました。飛んで止まるのはもちろん、プロに本当に信頼してもらえるボールになっていると思います。