10代目の登場を記念して、まずはゼクシオの歴史を振り返ってみたい。
“21世紀は美しく飛ばそう”というキャッチフレーズで、2000(平成12)年に発売された初代ゼクシオ。ドライバーヘッドの材料として1990年代に登場したチタンを用い、現在も引き継がれている「飛び・やさしさ・爽快な打球音」というコンセプトに基づいて開発された。
「比重が小さいチタンなら、ヘッドを大きくできます。それによってクラブ長も長くできる。その中でいかにやさしく、遠くに飛ばすか、というのが当時の技術背景にあったと思います」(芦野)
「XXIO」を「ゼクシオ」と読んでもらうところからスタートした初代は空前のヒットを記録。それに続く2代目、3代目も初代の305cm³から、350cm³、405cm³と大型化していったヘッド体積と比例するように、売り上げを伸ばしていった。
だが、2008年1月1日から適用された、ドライバーヘッドのスプリング効果(SLE)の性能に関するルール(以下、SLEルール)がドライバー開発の流れを変えた。
「SLEルールによって、クラブ作りにとって反発性能という指標の一つが規制されたことで、飛ばすために新たな方法を考えなければならなくなりました。技術的には大きなターニングポイントだったと思います」(尾山)
SLEルール適合・非適合モデルの両方を発売した4代目を経て、“脱高反発”の先駆けとなった5代目はヘッド体積を現在と同じ460cm³に大型化するとともに、ヘッドだけでなく、シャフトやスイングなどすべてにおいて“パワーチャージ”すなわち力を蓄えて飛ばすという発想で開発された。さらに6代目では、クラブ長を46インチに伸ばすとともに、重心を深くすることで打出し角を上げ飛距離アップを図った。だが、それまでの手法であるヘッドの大型化と長尺化は限界に達していた。
「そのため7代目からは、クラブトータルで飛ばす発想に加えて、ゴルフスイングに着眼して開発を進めました。7代目で、振りやすさの指針を、それまでのスイングバランスから慣性モーメントに変え、8代目ではさらに一歩踏み込んで、クラブの働きによってスイングにためをつくる“スイング慣性モーメント”という新しい発想をもとに設計して飛距離を伸ばしました。そして前作の9代目では、ヘッド軌道に着目しました。『XXIO X(テン)』も、そうしたスイングにまで踏み込んだクラブづくりの流れの中にあります」(芦野)
ヘッドの反発規制導入以降にダンロップが取り入れてきた、クラブだけでなくスイングにも着目し、ゴルファーにとって最適なスペックで飛ばしてもらうという発想。10代目モデルとなる『XXIO X』では、スイングからさらに一歩踏み込んでゴルファーの身体そのものに着眼した。
「9代目でヘッド軌道を解析した時に、おぼろげながら見えてきたのが、スイング中の体への負荷がヘッドに与える影響でした。つまり、体のブレが打点のバラつきに関係していて、これは興味深いと。そこから生まれたのが、クラブの働きによって打点を芯に集めるという、これまでにない発想でした」(芦野)
「それまで、ヘッドスピードを上げることに注力していましたが、『XXIO X』の開発では、“飛び”だけでなく“安定性”を求めてスタートしました。つまり、平均飛距離の向上です。打点のバラつきについて突き詰めていくと、クラブのスペックがスイングに影響を与え、ひいては打点にも深く関わっていることがわかってきたため、スイングを安定させるという考えを元に設計しようということになりました」(尾山)
従来は、ヘッドの反発エリアを拡大することで、バラつく打点をカバーしようとしていた。それに加えて『XXIO X』では、バラつき自体を小さくすることを試みた。反発エリアを広げつつ、反発エリアに打点を集めるという両方向からのアプローチによって、芯で捉える確率は必然的に高まることになる。
そして、打点のバラつきの原因となるのが、スイング中の身体のブレ。スイング中、ゴルファーの身体にはさまざまな方向に力がかかる。特に大きいのがダウンスイングでの前方への力で、ヘッドスピードが40m/sの場合、最大でおよそ40kgfという力がかかることがわかった。
「最大の原因は腕の重さで、人間の両腕は一般的な成人男性で7kgにもなります。それを振り回すことで遠心力がかかり、その力はヘッドスピードが速い人ほど大きくなります。ゴルファーは、それとは逆向きの力を使ってバランスをとりながらスイングをしますが、許容範囲を超えると前方に振られてしまいます。言い換えれば、身体への負荷が少なければバランスを崩しにくくなる。その相関関係を見出せたことで、クラブの働きで少しでもその力を抑えられないかと考えました」(芦野)
前方にかかる力を減らすにはどうすればいいのか。ここでカギを握るのがシャフトである。尾山をはじめシャフト開発陣は、まず、シミュレーションで前に力がかかる要因を探った。次にスイングマシンを使い、さまざまなスペックのクラブを多用なスイングで振らせ、なぜヘッド軌道がブレるのかを考察した。そして最後には、ブレを小さくするための対策を施したシャフトをつくり、ゴルファーによる実打テストを行った。
「それでわかったのは、シャフトをやわらかくすると切り返し時に大きくたわみ、ヘッドが身体の近くを通るということでした。その場合、スイング前半で腕が速く振れる一方、後半ではヘッドが走るので、腕の動きは逆にゆっくりになります。それに加え、シャフトを軽量化すれば、前方にかかる力が小さくなることが見えてきました」(尾山)
ただ、シャフトをやわらかくするだけだと、スイング時のフィーリングが頼りないものになり、方向安定性も悪くなるという弊害が出てくる。そのため、やわらかさと方向安定性をどう両立させるかが最大の課題となった。
その解決のために、開発陣は、モーションキャプチャーを使ってスイング中のシャフトの動きを観察した。
「その結果、手元がやわらかいと、切り返し時のたわみが最も大きくなることがわかったため、手元部分の剛性を下げました。さらに、大きくたわんだシャフトがインパクト時にしっかり戻るよう、先端部分の剛性をアップさせるとともに、つぶれ方向の剛性も上げました」(尾山)。
手元のやわらかさと、つぶれ剛性のコントロール。この二つによって、大きくたわみながらも、安定して打てるシャフトが完成した。スイング軌道を安定させることで、打点を芯に集める技術は「スマートインパクトシャフト」と名付けられた。
一方、ヘッドも、ボールをより芯で捉えやすくするために性能アップを図った。
開発に当たって芦野らは、ゴルファーの打点を再検証することにした。フェースを一辺5mm四方のマスに区切り、それぞれの位置で打つ確率を割り出した。そして、打点が集中し、なおかつゴルファーが芯だと感じるエリアの反発を高められないかを考えた上で、フェースの肉厚を緻密に計算していった。
「ゴルファーの実際の打点分布に合うよう、効率よく反発エリアを配置することを考えました。フェース中央だけでなく周辺部の肉厚も細かく計算し、ソールに入れた溝によるヘッドの変形も考慮して、溝を入れる位置を工夫しました。フェースの肉厚分布は、そうした細かな部分の積み重ねなんです」(尾山)
効率よく反発エリアを配置するために、ヘッドの製法も見直した。前モデルでは、反発エリアを広げるために、トウ側、ヒール側の折り曲げ幅を大きくしたウイングカップフェースという新たな構造を開発した。だが、それだとフェースとボディの接合部に厚い部分ができ、反発性能にロスが出ることがわかった。
「それなら、製法をもっとシンプルにしたほうが接合部を薄くできるし、フェースの薄肉部分ももっと生かせるのではないかと。そうしたことも加味して周辺部の肉厚を設計して構造を変更したのが、今回いちばん苦心した点ではあります。一見するとあまり変わらないじゃないかと思われてしまうのですが(笑)、実は大きく変わっているんです」(芦野)
そうして試作品ができると、そのたびにゼクシオ開発の伝統というべきゴルファーによる実打テストを繰り返し行った。一人につき約20球ずつ打ってもらい、一発ごとに「今のは芯で捉えましたか?」と聞き、すべての打点について○か×を記録していった。そもそも反発エリアというのは定義が曖昧だが、この実験によって、人はどこに当たった時に芯で捉えたと感じるかを数値化したのだ。
「その結果、ゴルファーは反発係数がある数値以上のエリアで打つと、芯を食ったと感じることがわかりました。実験によって導き出したそのエリアが我々にとっての“芯”です」(芦野)
製法の変更と肉厚設計の最適化によって芯が大きく広がったヘッドは、「ハイ・エナジー・インパクトヘッド」と名付けられた。反発エリアが広がったことで、芯で捉える確率は当然アップする。一方、前述の「スマートインパクトシャフト」によって打点のバラつきが減ったことで、やはり芯で捉える確率は上がる。そんなヘッドとシャフトが生み出す相乗効果「TRUE-FOCUS IMPACT」によって、打点分布は同じであっても、『XXIO X』では芯で捉える確率は前モデルよりも14%向上。実際の飛距離でも5ヤードのアップを達成した。
スイング中のゴルファーの身体の動きの解析をはじめ、『XXIO X』の開発において重要な役割を果たしたのが、ダンロップが誇るシミュレーション技術だ。その歴史は古く、導入されたのは1983年。そして2002年、「デジタルインパクト」として発表した。ただ、当時はボールとヘッドの衝突現象を解析するのみ。そこからさらに打球音や人間の感性の領域に踏み込んだのが、2006年に確立された「デジタルインパクトⅡ」(以下、DIⅡ)だった。
DIⅡは、「テクニカルプラットフォーム」と「ヒューマンプラットフォーム」という二つのプラットフォームから構成される。前者は、ヘッド、シャフト、ボール、インパクト、空力、弾道といった「モノ・機能」を対象にしたシミュレーションであるのに対し、後者は人体の関節や筋肉の動き、身体にかかる負荷・疲労、体重移動、それに打球音や打球感といった「ヒト・感性」の領域を対象とする。シミュレーションを駆使したモノづくりの根幹となるDIⅡのうち、ヒューマンプラットフォームがより重要な役割を担うようになったのが、7代目モデルの開発時だった。
「人の動きに関する研究をもっともっと加速させようと、“ヒューマンプラットフォーム”の充実を図りました。『XXIO X』の〈身体への負荷を抑える〉〈打点を芯に集める〉という技術は、まさに“ヒューマン”の人体シミュレーションに関わるテクノロジーを生かして開発したものです」(芦野)
「ヘッドの体積や反発などが規制されている今では、スイングロボットに振らせて真芯に当たった時には、どのクラブでもそれほど大きな差は出ないでしょう。では、どこで他社製品と差別化を図るかといえば、“ヒューマンプラットフォーム”が関わる人間の感性の部分です。これはゴルファーの購買意欲に関わる重要な要素で、その意味で我々が取り組んできたことは非常に強みになっていると思います」(尾山)
さまざまな制約があるものの、反発エリアの拡大など、飛距離アップのためにヘッドを改良する余地はまだあるだろう。とはいえ、ヘッドだけでできることには限界があるのもたしか。そう考えると、過去数代の開発でゼクシオが培ってきた、人の身体やスイングに寄り添ったモノづくりの姿勢は大きなアドバンテージといえる。
こうして完成した10代目のゼクシオ『XXIO X』。開発において中心的な役割を果たした二人に、改めてどんなクラブなのかを聞いた。
こうして完成した10代目のゼクシオ『XXIO X』。開発において中心的な役割を果たした二人に、改めてどんなクラブなのかを聞いた。
「新たなシャフトの開発やヘッドの軽量化など、今考えられる最高の技術を組み込んだクラブに仕上がりました。ゼクシオはまだこれからも続いていきますが、我々がこの20年間培ってきたものすべてを注ぎ込んだ集大成になったと思います」(尾山)
「飛びを追求したクラブは他にもありますが、大切なのは飛びだけではないように思います。我々は、飛びだけでなく、打った時の気持ちよさやフェアウェイをとらえた時の快感といったゴルフの醍醐味を味わっていただけるモノづくりを目指しています。ゼクシオはまさにそういうクラブだと思いますし、今回の『XXIO X』も、ゴルファーのみなさんが使ってうれしくなるようなクラブになったと思っています」(芦野)