2018/08/10

SRIXON製品情報

NEW スリクソン Zシリーズ ドライバー開発レポート

8月21日売 月刊ゴルフダイジェスト掲載
制作:ゴルフダイジェスト社企画制作室、撮影:富士渓 和春

新しいゴルフクラブが上市された時、その作り手の顔にはいくばくかの安堵が浮かんでいるものだが、NEW スリクソン Zシリーズ(9月22日発売)を完成させたエンジニアの表情は、どこか緊張感あるものだった。まったく新しいモノを世に問う、そんな始まりの雰囲気に満ち溢れていた。

 『スリクソン』のドライバーが現在のような5シリーズ、7シリーズのように系統付けられて発売されるようになったのは、2012年からである。この頃から始まった海外市場でのシェア獲得をも視野に入れた商品開発。世界戦略ブランドとしての成功が、2014年モデル、2016年モデルとモデルチェンジを重ねるたびに大きく求められるようになっていった。では、成功とは何か? その一つの指標となるのがツアー選手の使用率である。『スリクソン』のアイアンについては、契約選手からも極めて高い評価を受け、順調に使用率を伸ばしてきた。課題は、いつもドライバーだった。開発陣は常にプロサービスと連携し、プロのドライバーに対するニーズを掴もうと必死になったし、それに適うドライバーをその都度生み出してきたはずだった。しかし、成果は思うようには上がらなかった。どうすればよいのだろう。開発責任者の森山圭治(住友ゴム工業スポーツ事業本部 商品開発部部長/クラブ技術担当)の頭の中には、常にスリクソン ドライバーのことがあった。もう何年も、である。

 「海外でのシェアを伸ばす、という意味では2016年モデルも成功とは言えませんでした。その反省を踏まえ、我々がとった方法は、米国で30%以上の高いシェアを誇る競合他社のドライバーを徹底的に調べ、その結果をしっかりとスリクソンの次期モデルに落とし込むことでした。決して真似ではありません。欧米選手を満足させるドライバーの答えの一端がそこにあり、それを理解して初めて我々独自の方法論、使うべき技術が導き出せる。そう考えたのです」(森山)

他社品の分析。ここだけ聞けば、当たり前のことのようにも思えるが、それほどまでに契約選手の満足を一番に考え、“個”と向き合ってツアーモデルを作り上げる。それがスリクソンの、いやダンロップの伝統的の開発スタイルだった。こうした開発姿勢は、『ゼクシオ』では間違いなく成功の原動力になっている。アマチュアゴルファーのことを知悉し、その願いである飛距離アップの夢を叶え続けるために、常に自ら(ゼクシオ)をベンチマークとして突き進んできた。それが王者・ゼクシオの姿だ。しかし、『スリクソン』はゼクシオではない。挑戦者として、まずは前を行くライバルに並ばなければならなかった。

NEW スリクソン Zドライバーの開発現場を指揮した平野智哉(住友ゴム工業スポーツ事業本部商品開発部 課長/クラブ技術グループ)はこういう。

 「契約選手の顔ぶれは時代によって変わり、理想とされるクラブのあり方も変わってきます。我々はなんとかそうした選手の変化に対応しようと努めてきましたが、欧米で圧倒的なシェアを誇る競合メーカーの歴代モデルを分析すると、各社ごとの違いはあるとはいえ、それぞれ時代による設計コンセプトの大きな変更がみられないことがわかりました。欧米でも主要選手は入れ替わりますが、それによってドライバーの設計コンセプトは大きく変わることはない。だからこそNEWモデルにスイッチしやすいですし、すぐに安定した結果を出しやすいのだと思いました」(平野)

 ベンチマークとする欧米各社が貫いているのは、ヘッドの重心設計の傾向、慣性モーメントの拡大、かまえやすさを左右するホーゼルからフェースのつながりであったりと多岐にわたる。しかし、そうした細かな基本設計の一つひとつが不変であることこそが、信頼感を高め、高いシェアを維持する要因になっていることを改めて痛感したのだと、平野はいう。

 「欧米市場で先をいく各社の特徴をベンチマークとし、我々独自の技術でこれに並び、超えるために必要だったのは、『ゼクシオ』で培った最新の“カップフェース”の技術でした。我々はこの“カップフェース”に自信を持ちながらも、これまで生産コストの面から『スリクソン』にその最新技術を応用することはしてきませんでした。しかし、今回、『スリクソン』には確固たる技術的な核が必要だと考えました。10代に及ぶ『ゼクシオ』の開発で独自に進化させてきた“カップフェース”には、競合ブランドに並ぶだけのポテンシャルが備わっています。コストを度外視、我々の持ち得る最高の技術を投入して完成させる、スリクソン ドライバー。それが『Z585/Z785』なのです」(森山)

 飛距離アップを求めるアマチュアゴルファーをターゲットとした『ゼクシオ』のカップフェーステクノロジーが、なぜアスリートが使う『スリクソン』ドライバーにも必要だったのか? その真意を次で紹介してみよう。

1ヤードでも遠くへボールを飛ばすために。『ゼクシオ』の開発ではカップフェーステクノロジーが、その基幹技術として磨かれてきた。今回、その最高技術をスリクソン ドライバーに採用したということは、やはり、世界のアスリートにも“飛び”へのアピールが必要だったということだろうか?

 『ゼクシオ』のドライバーでは大きく分けて3世代のカップフェースが使われてきた。第一世代は2000年代初頭の高反発時代、ゼクシオ2代目~4代目(高反発)で採用されたβチタン系のカップフェース。第二世代はSLEルール施行後ゼクシオ4代目(適合)~5代目に採用された、最大反発を広域に広げるSuper-TIX® 51チタンカップフェース。そして、ゼクシオ6代目~現在の10代目に採用されているSuper-TIX® 51AFチタンカップフェースが最新系であり、第三世代に分類される。このカップフェースの変遷は、まず素材の変更にある。世代が変わるごとに強度が増し、薄肉化しても割れにくい素材になっていると考えればいい。フェースの薄肉化はフェースの反発性能を広範囲で向上させるだけでなく、フェース自体の軽量化に大きく寄与。フェースが軽くなっただけで深重心化は進み、軽量化で得た余剰重量をソールやヘッド外周に配分し、慣性モーメントのアップや低重心化に使うこともできる。超軽量ドライバーのパイオニアであるゼクシオにとっては、なくてはならないパーツがSuper-TIX® 51AFチタンカップフェースである。

 「第三世代のチタンカップフェースは、打点が多少ずれてもフェースの広いエリアで、芯を喰った時と同等のパフォーマンス(初速)を得ることができます。このことから、広域反発フェース、あるいはミスにやさしいフェースである、と表現できます。しかし、今回、スリクソンにこの第三世代のチタンカップフェースを採用した理由は別にあります。本当の狙いは、他社ドライバーを使うプレーヤーに幅広く、愛用ドライバーと同等以上のパフォーマンスを体感してもらうためなのです」(森山)

少し難解な話になってきたが、簡単にいえばこうである。

 欧米ツアーで人気のドライバーにもそれぞれ特徴があり、重心の位置などは微妙に異なっている。スリクソンとして、その一つ一つに対して同等のヘッドを用意することはできないが、ゼクシオ由来の最新カップフェースを使えば、各社ドライバー、従来のスリクソン ドライバーの重心位置の違いを網羅した広い“エリア”で最高レベルのパフォーマンスを発揮させることができる。つまり、打点ズレに強い最新カップフェースは、複数のドライバーをその広いスイートエリアで包み込んでいるようなものだ。その上で、今回のシリーズでは、『Z785』を欧米で人気のドライバーを使うプレーヤーに好まれるヘッド形状と基本設計に。一方、『Z585』は見た目も重心設計も日本人好みの仕様で、より上がりやすく、つかまりやすい特性を持たせ差別化しているという。

 「フェースの広範囲で等しいパフォーマンスを発揮するためには、薄肉化が絶対条件ですが、強い力が加わっても破損しない耐久性も同時に必要。パワーレベルが桁違いの欧米ツアーでの使用を念頭におけばなおさらです。こうした観点からも、ゼクシオ テンで採用しているSuper-TIX® 51AFチタンカップフェースが最適と判断しました。肉厚分布や形状など基本設計はゼクシオとは違いますが、ゼクシオと同じ最高の素材と最新製法で生み出しているのが、NEW スリクソン Zドライバーのカップフェースなのです」(平野)

 森山のいった“技術の核”は、ブランドの枠を超える基盤ともいえるものである。ダンロップ ドライバーの核が、第三世代カップフェースであるといえそうだ。

NEW スリクソン Zドライバーは、キャッチコピーに“ZERO SRIXON”という言葉が使われている。従来の設計理念を一新し、すべてのパフォーマンスで生まれ変わったことを伝えたい。そういう想いが込められているそうだ。ゼロからのスタート。本当にそうなのだろうか? と個人的には思う。

 “ゼロ”という言葉を聞いて、どんなイメージを想起しただろう? リセット、一新。過去を一度清算し、新たな一歩を始めたい。そんなニュアンスを感じ取ったのではないだろうか?

 しかし、今回のNEWドライバーについて開発陣の話を聞いていて、まったく違う印象を受けた。それはここまで書き連ねてきた通り、NEW スリクソン Zドライバーの基幹テクノロジーは、過去10代18年、ダンロップのエンジニアが進化させてきたゼクシオのカップフェーステクノロジーにあるからだ。いわば、たゆまぬ努力と研鑽が作り上げた尊い財産である。

 よく“ゼロ”からのスタート、というが、それは何もなかったことにして、イチから出直すようなことでは決してないだろう。むしろ、ここからがスタートであると覚悟を決めて、確かな一歩を踏み出した地点。それが“ゼロ”、つまり起点だといえる。それが“ゼロ・スリクソン”の意味なのではないだろうか。

 森山が現状の技術の核と決めた、ゼクシオ由来のカップフェーステクノロジー。その核ができたことで、スリクソン ドライバーに足りないもの、やるべきことがどんどん見えてきたという。

 「開発を進めていくなかで今後取り組んでいかなければならないことが確かに見えてきました。それが次への活力です。次、我々にはそれがあるのかもわからないのですが(笑) すでに開発チームは動き始めています。開発期間は限られています。のんびりしている時間はありません」(森山)

 どうしようかと悩んだ日々が嘘のように、時間が流れ始めている。ここが起点となって新しいスリクソン ドライバーの世界が広がっていくのだろう。エンジニアたちの目は、しっかりと先を見据えていた。(文中敬称略)

SRIXON Z585 DRIVER

つかまり感があり、ハイ・ドローイメージがわくヘッド形状。シャローバックの度合いを強め、深・低重心化によって打ち出しが高くビッグキャリーが狙える。
アマチュアにも安心感を与える、つかまるイメージが持てるヘッド形状。

SRIXON Z785 DRIVER

多くのアスリートが違和感なく構えられるニュートラルなヘッド形状を新採採用。自然なヘッドターンでプレーヤーの意図通りに操れる、高い操作性が特徴。
フェースとホーゼルのつながりやクラウンバックの頂点の位置を工夫し、高い操作性を感じさせる新しいツアーシェイプを採用。

「海外の選手たちに手放せない!と言われるほど浸透しているのが、実は『Miyazaki』シャフトなんです」と平野智哉氏。『Miyazaki』はその名の通り、宮崎県都城市にある自社工場で内製するダンロップのオリジナルシャフト。今回のドライバーにも専用シャフトの“Mahana(マハナ)”を新開発。さらにすでに定評ある代表モデル“MIZU”、“KORI”、“KIRI”の3種類も用意されている。


Miyazaki Mahana(Z585、Z785)

Miyazaki MIZU(Z785)