2019/11/28

D-Cafeレポート

[D-cafe独占インタビュー] 畑岡 奈紗「メジャーでも自然体」

 向かうところ敵なし―。畑岡 奈紗の2019年の日本国内での戦いぶりには、まさにこの言葉が当てはまる。
 開幕戦「ダイキンオーキッドレディス」こそ17位に終わったものの、それから半年後、大会初出場となった「日本女子プロゴルフ選手権大会コニカミノルタ杯」(以下、日本女子プロ)では、2位に8打もの大差をつけて圧勝。さらにその強さを改めて印象づけたのが、畑岡自身、
「あの大会をきっかけにプロ生活を始めることができたので、思い入れが強いですし、(アメリカを主戦場とする)今も自分の中では大きな大会です」
 と語る10月の「日本女子オープンゴルフ選手権」だった。

「ラフは長かったけれど、グリーンコンディション次第ではスコアが出そうだなと」
 そんな予感通り、畑岡は初日から3日連続で「67」をマーク。通算15アンダーの首位タイで最終ラウンドをスタートさせた。序盤の2番、3番を連続ボギーとし、一時首位の座を明け渡したものの、5番、さらに8番でバーディを奪い、4日間で初めて単独トップに躍り出る。すると、畑岡はここからタフなUSLPGAツアーで身につけた対応力の高さを発揮する。

 この日、273ヤードに設定された9番パー4。畑岡がドライバーで放ったボールはフェアウェイセンターにある木に当たったものの、グリーンの正面、ピンまで約60ヤードの地点に止まった。

「あのくらいの距離のアプローチはずっと課題でした。ライがダウンヒルだったので上げるのは難しいかなと思ったし、逆にあれだけカップが奥だったので、転がしていこうと」

 低めに打ち出したボールは、ピン横30センチにつき、難なくバーディを奪った。
 さらに、結果的に4日間の平均スコアが4.3222と最難ホールとなった15番パー4。2位と1打差でこのホールを迎えた畑岡は、第2打で果敢にピンを狙った。だが、ボールはカップのすぐ横に落ちたもののグリーンをわずかにオーバーし、奥のラフにつかまった。ボールは深いラフにすっぽりと埋まっている上、カップまで距離がなく、しかもグリーンは下りという難しい状況。だが、畑岡はここでもアメリカで磨いた技を見せる。

「すごく柔らかく打てました。微妙な距離が残りましたけど」
 と本人は苦笑いしたが、58°のウエッジでフワリと浮かせるショットで1メートルに寄せると、これを慎重に沈めてパーをセーブ。「あそこが勝負どころだと思ったので」と、小さなガッツポーズを何度もつくった。

 タフなホールでのピンチを乗り切った畑岡は、16番、そして18番でもバーディ。通算18アンダーまでスコアを伸ばし、2位に4打差をつけて勝利した。初優勝した16年以降、4年間で実に3度目のタイトル獲得であり、20歳266日での国内メジャー4勝目は50年ぶりの史上最年少記録更新となった。
 国内メジャー連勝を果たした畑岡のバッグを担いでいたのは、今季からUSPGAツアーでコンビを組む54歳のグレッグ・ジョンストン。かつて岡本綾子のキャディを務めたこともあるベテランキャディについて、畑岡は、
「笑わせてはくれますが、アメリカ人の中では、たぶん真面目なほうだと思います(笑)。私が聞いたことには全部答えてくれますが、それ以上のことは言ってこないので、私としてはすごくやりやすいです」
 と相性のよさを口にする。ジョンストンは9月半ばに自身がアメリカに一時帰国した際には、数日後の再来日に備え、日本時間に合わせて昼夜逆の生活をしていたという。畑岡の偉業は、ジョンストンの高いプロ意識にも支えられていた。

 一方で、畑岡は、主戦場とするUSPGAツアーでは昨季ほどの輝きを放つことはできなかった。自らに課した「4日間競技での優勝」という目標は、3月の「KIAクラシック」で早々にクリアしたものの、年間獲得賞金は約92万ドルと、昨季の約145万ドルを大きく下回り、賞金ランクも昨季の5位から18位に落とした。
 その原因が、5戦中3試合で決勝ラウンドに進めなかったメジャーでの不振にあるのはたしかだろう。今年こそ初制覇をと挑んだはずのメジャーで結果が残せなかったのはなぜなのか。その理由として、畑岡はスケジューリングのまずさを挙げる。

「私の場合、連戦は4試合がマックスだと思っているのですが、今年は6月中旬から4週間プレーし、1週間の休みを挟んでまた3週プレーしました。でも、休みが1週だけだと、移動日を含めると実質5日しか休みがなくて、しかもその間にトレーニングと練習もしないといけません。そうなると、なかなか疲れがとれなくて」

 連続予選落ちを喫した「エビアン選手権」「AIG全英女子オープン」という2つのメジャーは、上記の3連戦の最後の2試合に当たっていた。そして、イギリスでの試合後、2週間の休養をとってツアーに復帰すると、5位、4位と2試合続けてトップ5フィニッシュを果たした。冒頭の「日本女子プロ」で初優勝を飾ったのは、その翌々週のことである。

「今は、メジャーの前に思い切って2週休めばよかったと思います。1週目にまずしっかり体を休めて、2週目に入ってから徐々に体を動かしたり、練習したりする。それに、休んでいてもやっぱり考えることはたくさんあるので、頭をフレッシュな状態にして考えたほうが、新しいアイディアが浮かぶし、調子がいい時の感触も思い返せます」

 ほとんどが4日間競技であるUSLPGAツアーでは、コンディショニングがより重要であり、畑岡の課題でもあるようだ。
 一方で、シーズン中にスイングプレーンを以前のアップライトに戻すという改造を行った昨季とは違い、今季は技術面で不安を抱くことはなかったという。ただ、スイングの完成度を求める作業は一段レベルが上がった。

「知らず知らずのうちにグリップの握り方が変わっていたり、私の悪い癖でトップの位置が低くなったりするので、そのあたりは気をつけているのですが、それ以上に細かいところにも気を使っていかないといけないと思っています。たとえば、振っていてどうもしっくりこないという時に、動画を撮って見てみても、構えもスイングプレーンもテンポも調子がいい時と一緒なんです。どこが違うかは、たぶんガレス(JGAナショナルチームのヘッドコーチであるジョーンズ)が見ても分かりません。あくまで自分の感覚の違いなんです」

 そんな畑岡は今、つかの間のオフを過ごしているが、まもなくオリンピックイヤーがやってくる。

「オリンピックには前から出たいと思っていましたが、リオの大会をテレビで観てから、その思いはさらに強くなりました。やはり国を背負うのは特別ですし、いつも身に着けるスポンサーさんのロゴが、国旗に変わると、また違った緊張感があるんじゃないかと。それはテレビ画面を通しても伝わってきました」

 現在、国際ゴルフ連盟(IGF)のオリンピックゴルフランキングで、畑岡は日本人トップの5位につけている(11月25日時点)。来年6月29日の時点で15位以内をキープできれば、ほぼ間違いなく念願の切符を手にすることができる。それを確実にするには、やはりポイントの高いメジャーで活躍するのが一番だ。

「メジャーは年に5試合しかないので、そこにしっかりピークを合わせられないと、やはり上位には行けません。ただ、私はまだメジャーに関しては経験が浅いので、ピークの持って行き方とかをもうちょっと研究しないといけないなと思います」

 ピーキングの重要性を強調する畑岡だが、一方でこうも話す。

「今年はメジャーというのを意識しすぎてうまくいかなかったのかなという気もするので、来年は“自然に”臨めれば。他と同じ一試合だと思って」

 自然体で挑む来季のメジャーは、4月の「ANAインスピレーション」で戦いの幕を開ける。