クリーブランドのラインアップの中で日本市場を中心に企画された軟鉄鍛造モデル。その最新モデル『RTX DEEP FORGED 2 ウエッジ』(以下、DEEP FORGED 2)を開発するに当たり、中村たち開発陣は商品企画チームからこんな要望を受けた。
「〝狼の皮をかぶった羊〟のようなウエッジを作ってほしいと(笑)。それは前作の開発前にも言われたことで、つまりは、〝見た目はシャープで上級者が好みそうな雰囲気を出しつつ、中身は、フェースが大きめでソール幅も広く、打ってみるとやさしい〟というウエッジです。そのため、ターゲットは上級者というより中級者をイメージしました」
ご存じのように、クリーブランドには、多くのツアープロが愛用している軟鉄鋳造モデル「RTX 6 ZIPCORE ウエッジ」がある。そのため軟鉄鍛造モデルは、それより扱いやすさや寛容性が求められ、前作もそのコンセプトに基づいて作られた。
「前作への評価は高かったと感じています。ただ、評価が高かった分、次のモデルではどこをどう変えるべきなのか部内で話し合いました。その結果、〝小細工せずに、素直に打ってやさしい〟ウエッジをめざしつつも、こだわるべきところにはこだわって作ろうと考えました」
では、中村たちが「DEEP FORGED 2」の開発に当たってこだわった3つのポイントについて紹介しよう。
「DEEP FORGED 2」のヘッドで、まず目をひくのがバックフェースの特長的なデザインだ。前作では真ん中の厚肉部分をソール寄りからフェース上部に向かって末広がりの形にしていたのに対し、「DEEP FORGED 2」では厚肉部が逆台形になっていて、かつ厚肉部全体をトゥ方向に7.5mm拡大した。
「厚肉部をセンターからトゥ寄りに配置したのは、そのライン上に打点が分布しているからです。ウエッジはフェースをカット気味に使うことが多く、ショット跡がそのライン上に残りますよね。それに合わせる形でバックフェースを厚くしました」(中村)
ボールがあまり当たらないヒール寄りの部分の肉は減らす一方、ボールが当たりやすいセンター~トゥ部分の肉を厚く設計。それにより、トゥ寄りでヒットしても打感はソフトそのものだ。
「打点部分をできるだけ分厚くすることで、ボールを弾くのではなく、押し出すような打感になるようにこだわりました。実際に打ったテスターからは、〝前作よりも打感がよくなった〟と評価していただいています」
また、ヘッド素材の軟鉄「S20C」には従来モデルと同じ特殊な熱処理を施し、表面をできるかぎりやわらかく仕上げた。このように、軟鉄鍛造がもつマイルドな打感に、厚肉化と熱処理の効果が加わり、日本人好みのボールが吸いつくような打感が生まれた。
ウエッジのスピン性能のカギを握るフェース面の溝。それに加え、スピン量を安定させる役割を果たすのがミーリングだ。
中村によれば、ドライ状態ではミーリングが入っていなくても、溝だけで十分スピンがかかる。ミーリングが威力を発揮するのは、ウェットなどの悪条件下で摩擦が足りなくなった時で、溝を補完するものとしてミーリングを入れることで、スピン量の減少幅を抑えることができる。
「DEEP FORGED 2」の開発に当たり、中村たちは、スピン量のさらなる安定化を求めてレーザーミーリングを改良した。前作では横方向のみに入れていたレーザーミーリングを、斜め方向にも加えたのだ。それも、48°、50°~52°、54°~60°とロフトごとにミーリングの長さや本数を変えている。
「少ないロフトに、ミーリングを細かく入れすぎると、ドライ時とウェット時とでスピン量の差が大きくなってしまいます。一方、多いロフトにはミーリングを細かく入れないと、ボールを嚙み込んでくれません。そのため、ミーリングが効きすぎないように工夫する必要はあるものの、ロフトによってレーザーのタイプを変えて、そのロフトに応じてスピンがかかりやすくしています」(中村)
この新たなレーザーミーリング「HydraZip」は、「RTX 6 ZIPCORE」で開発、搭載された技術。中級者をターゲットにしているとはいえ、スピン量の安定化のために、プロ・上級者モデルのための技術をふんだんに使っているのだ。
「DEEP FORGED 2」において、日本仕様という特性が形になって現れているのが、アドレス時のフェースの見え方、いわゆる顔だ。
中村によれば、前作はクリーブランドらしい形を忠実に再現し、リーディングエッジに丸みをもたせた。それは、アメリカではフェアウェイでも芝にボールが沈むため、フェースを開いてボールを拾いやすくするためのデザインだった。
「それに対し、日本の高麗芝ではボールが浮くので、フェースを開いて打つと、だるま落しや、ボールがフェースの上部に当たる〝ポッコン〟になってしまいます。つまり日本では、フェースをまっすぐ構えて、普通に打てることがウエッジの最重要事項になるのですが、リーディングエッジが丸すぎると、まっすぐ構えにくくなります。それに、日本ではロブだけでなく、低く打ち出してスピンかけて止めるショットやピッチ&ランなど、ショットバリエーションの多さも求められます。そこで今回、リーディングエッジの形状を見直してストレートに近づけました。これは伝わりづらいところなのですが(笑)、私たち開発陣にはとても大きな変化で、こだわった部分です」(中村)
この形状は、上級者と「普通に打てるウエッジの形状とは?」というテーマで意見交換する中で生まれたもので、見た目にこだわる上級者も満足させる顔に仕上がったと言える。ただ、リーディングエッジがストレートになると、逆にフェースを開いて使いにくくなるのではないかという疑問が生じる。
それについても、開発陣は上級者に対し繰り返しヒアリングを行った。リーディングエッジがストレートでも、抵抗なくフェースを開けるようにするにはどうすればいいのか? ポイントは、中村たちが〝懐〟と呼ぶネックとフェースのつなぎ目の部分だった。
「懐が平らでフェースにつながると、フェースを開いた時に違和感が出ると。それに対し、懐に肉を盛って丸みをもたせると、ネックとフェースに一体感が出て、フェースを開きやすくなるという意見があり、『DEEP FORGED 2』ではそれを取り入れました。ここも、実際に構えて確かめていただきたいポイントです」
ゴルファーの目にどう見えるかを突き詰めた結果、フェースをスクエアに構えても開いても違和感のない絶妙な形状が誕生した。
冒頭でも述べたように、「DEEP FORGED 2」は、中級者をターゲットに想定して開発されたモデル。大きめのフェースがその象徴だが、たんにやさしいだけのウエッジではなく、中村がこだわりとして挙げた、上級者がウエッジを選ぶ際にチェックする細部にも工夫がこらされている。男子の稲森 佑貴プロや小木曽 喬プロがツアーで使用しているのがその証だろう。
それらを踏まえ、開発者として「DEEP FORGED 2」はどんなゴルファーにオススメなのか、改めて中村に聞いた。
「軟鉄鍛造なので、やはり打感を重視する人に使っていただきたいですね。それと、やさしさを追求すると、見た目がいかにもやさしい〝お助けクラブ〟になりがちですが、『DEEP FORGED 2』は、形状にも強くこだわって、シンプルかつシャープに見えるようにしています。ですから、〝かっこいい〟と感じたら、まず手に取ってほしいと思います。そして、実際に打ってもらえれば、見た目よりやさしいことがわかるはずですし、形状についても、構えてみれば、部位の一つひとつに意味があることがわかっていただけると思います」
『RTX DEEP FORGED 2 ウエッジ』の詳細はこちらをご覧ください。