Q:まず、「クリーブランドゴルフ RTZ ウエッジ」(以下、RTZ ウエッジ)の開発はどんなことからスタートしたのでしょうか?
町田:はい。RTZ ウエッジは、他のクリーブランドウエッジと同様、商品企画を我々日本の住友ゴム工業のチームとアメリカの「Roger Cleveland Golf社」(以下、CG)のチームが協力して行い、開発をCGのチームが主体となって進めた全世界共通モデルなのですが、CGの開発チームは、従来の素材に限界を感じていました。
Q:素材についての限界ですか?
町田:そうです。RTZ ウエッジは鋳造ですが、鋳造ウエッジの材料には「8620」というソフトスチールが30年以上も使われています。そこに、当社を含めた各ゴルフメーカーがテクノロジーを搭載してきたのですが、開発チームによると、8620を使っていてはコモディティ化し、ある種の壁につき当たってしまうと。そのため、壁を破るには、まず素材を変える、そして、それにはどうしたらいいかを考えることからRTZ ウエッジの開発をスタートさせました。
Q:まずヘッド素材を変更することを決め、新たに素材を独自開発したのですね。
町田:はい。既存の素材でいいものがあれば、それを使って開発することもできたと思います。でも、既存の素材の中に、CGの開発チームの要求に応えられるものがなかった。それならば、自分たちで作り出すしかないと考えて開発したのが新素材「Z-ALLOY(ゼット アロイ)」です。
Q:Z-ALLOYの資料には、〝混合、溶解、精錬のシミュレーションを繰り返し、ベストな配合方法を模索〟とあります。新しい素材を開発するのは、かなり大変だったのでしょうか?
町田:はい、非常に苦心したと聞いています(苦笑)。当然ですが、ヘッド素材に求められる品質は複数個あります。その中では、もちろん打感が大事なのですが、曲げやすさという点も重要な要素です。アメリカでは、日本よりもカスタマイズするのが一般的なためです。さらに、単にやわらかければいいかというと、もちろんそうではなくて、耐久性も両立しなければいけないということで、そのバランスを追求するのに非常に多くの時間を要しました。
Q:開発のスタートから完成までの期間はどれくらいですか?
町田:およそ2年半はかけています。その中には、先ほどのシミュレーションをした期間だけでなく、実際にプロトタイプはできたけれど、量産に落とし込んでいくときにトライ&エラーを繰り返した過程も含まれます。そうした苦労を重ねて、商品化が実現されました。
Q:素材の変更には、やはり多くの困難が伴ったということですね。
町田:はい。RTZ ウエッジには、クリーブランドウエッジの基幹テクノロジーである「ZIPCORE(ジップコア)」をはじめ、「HYDRAZIP(ハイドラジップ)」や「ULTIZIP(アルチジップ)」などの溝に関する精巧な技術を、前作から踏襲、搭載しています。それらの技術は、ベースになる金属を変えたことで、同等の性能を出そうと思っても、従来の製法のままではできないというケースが多々ありました。そのため、例えば加工に関しては、溝を掘る刃の回転数を変えるなどの微調整や工夫を施して、前作と同等の機能やパフォーマンスを実現しています。
RTZ ウエッジのために独自開発された新素材「Z-ALLOY」。従来のウエッジ素材「8620」にくらべて「ソフト」「軽比重」「錆びにくい」といった特長を備えている。
Q:では、改めてRTZ ウエッジの特長について、前作との違いも含めておしえてください。
町田:いちばん大きな違いは、やはりZ-ALLOYという新しい金属に紐づく部分です。前作とくらべると、硬度を10パーセントやわらかくできたことで、クリーブランドウエッジの歴代の鋳造ウエッジの中でも最もやわらかくなったと言ってよく、その分、打感もやわらかくなっています。
Q:Z-ALLOYを採用したことによる効果は他にもあるのですか?
町田:はい。前作にくらべ軽比重のZ-ALLOYで作られているので、より設計の自由度が上がっています。具体的には、ヘッドの余剰重量を最大で約6g創出し、トウ寄りに配分することでMOI(慣性モーメント)が向上しました。それによって、同じようにスイングしても打点のバラつきを抑えることができます。
それとアメリカでは、RTZ ウエッジのバックフェースについて〝シンプルでクリーンなデザイン〟と謳っているのですが、それも設計上の制約が少なくなったために実現できたもので、ウエッジとしての完成度を大きく上げることができたと思っています。
Q:そして、先ほどのお話にもあったように、基幹技術である「ZIPCORE」も踏襲されていますね。
町田:はい。今回で3代目になるZIPCOREも、前作と同様余剰重量の創出に貢献しています。それも重心位置をトウ側に近づけることができた要因です。溝に関する「HYDRAZIP」「ULTIZIP」という独自技術は、Z-ALLOYに合わせてアップデートしていて、それぞれ〝NEW~〟と言ってよいものです。それにより、一貫性、アメリカでは〝コンシステンシー〟と表現しますが、どんなふうに打っても、飛距離やスピンにバラつきが少ない、一貫した性能を得られるのが今回のポイントです。
Q:これまではラインアップとして独立していた「フルフェース」が同じシリーズに組み込まれたのも前作との違いですね。
町田:はい。これまでは、別モデルとしてフルフェース仕様を1年後に発売してきました。ただ、そうするとどうしてもお客様がセットで購入を検討する機会は少なくなってしまいます。RTZ ウエッジにおいては、プロでもスタンダードなフェースと、フルフェースをコンボで使用しているケースがあります。そういう意味でも、今回はお客様により幅広い選択肢を提供できる商品になっていると思います。
Q:やはりフルフェースには、一定のニーズがあるのでしょうか?
町田:私たち商品企画チームは、そう考えています。特にレベルの高いゴルファーになると、フェースを開くなど、多様なショットを打つ機会が多いと思います。そうしたシーンで、しっかりとスピンがかけられる点はベネフィットになると考えています。使用するプロからも「打ち方のバリエーションがかなり増えるのでいい」という声を聞いています。
RTZ ウエッジのシンプルでクリーンなバックフェースはツアープロたちの評価も上々。クリーブランドウエッジ伝統のティアドロップ型のヘッド形状もプロ・上級者の好みに合う。
ロフト別に、異なるフェースブラストとレーザーミーリング(左写真)を施した「HYDRAZIP」と、高精度で設計された深く狭いグルーブ「ULTIZIP」。両者とZ-ALLOYの融合が、強烈かつ悪条件下での安定したスピンを可能にする。
Q:冒頭でCGの開発チームによる素材変更のお話が出ましたが、今回の開発に関して、〝ここにこだわった〟というところは他にありますか?
町田:日本では大きく謳っていませんが、RTZ ウエッジには、実はとても特徴的な部分があります。それは錆に対する強さです。アメリカではノーメッキへの需要も大きいので、金属を新たに開発する際に錆に強いかどうかを非常に重視しました。日本では、ウエッジが錆びることは、それほど問題だと思われておらず、むしろ〝錆びた方がスピンが入る〟とステータスになっているところがありますよね。けれど、アメリカで実際に錆びたものとそうでないものとで性能を比較検証してみたところ、やはり錆びると金属が劣化するために、非常に精微に作っている溝の設計に悪影響を与えていることがわかりました。つまり、スピンの一貫性が崩れるし、パフォーマンスも当然落ちます。それに、錆びると溝の消耗が早くなることも確かです。その点、RTZ ウエッジのツアーラックは、ノーメッキならではの打感の良さという部分は損なうことなく、劣化のスピードを遅くしてスピン性能を長持ちさせることに成功したということで、PGAツアーをはじめ、ツアープロから非常に好評をいただいています。
Q:なるほど、Z-ALLOYという素材には、錆びにくいという特長もあるのですね。たった今、ツアープロの話が出ましたが、すでに多くのプレーヤーが実戦で使用しているようですね。
町田:はい。非常にスムーズに切り替えが進んでいて、PGAツアーだけでなく、LPGAツアーでも、竹田 麗央プロが今季の開幕戦から、山下 美夢有、勝 みなみ、畑岡 奈紗の各プロも翌週から、それぞれRTZ ウエッジを3本ずつ使用しています。国内の男女プロもほとんどの選手がスイッチしています。素材の金属はアップデートしたものの、ヘッド形状はクリーブランドウエッジの伝統であるティアドロップ型を採用していますし、ソールグラインドも前作のものを踏襲しています。違和感がないようにアップデートしたのを、プロのみなさんはベネフィットとして感じてくださっていると捉えています。
Q:打感やバックフェースのデザインについての評価はいかがですか?
町田:山下プロは、最初に打った時にやわらかさを感じたようです。また、勝プロは、「打感がやわらかく、狙った距離がきちんと出る」という表現をしていて、打感のよさと距離感が合う点が両立されているのがプロにとっては魅力のようです。また、シェーン・ローリー選手は、スピン性能を高く評価した上で、アドレス時の形状やバックフェースデザインに対して、「これまでのウエッジの中で最も〝Clean〟」と言って、すぐに使用することを決めたということでした。バックフェースだけでなく、構えた時にも洗練された形状を感じていただけたと考えています。
Q:改めてお聞きしますが、RTZ ウエッジは、どんなゴルファーに使ってほしいと考えていますか?
町田:シリアスにプレーして、常にレベルアップを目指したいと考えているゴルファーの皆さんに提案したいですね。我々としては、打感、パフォーマンス、スピン性能とすべての面で他社モデルに勝るとも劣らないと考えているので、「今までクリーブランドウエッジを使ったことがなかったけれど、実際の性能はどうなんだろう?」という方にはぜひ使っていただいて、「やっぱり打感が違うね」とか、「スピンが入って、きっちり狙った距離が打てる」という点を感じていただければと思います。また、多くのプロが評価している〝クリーンさ〟を体感できるウエッジですので、是非とも一度、手に取って構えていただきたいですね。
RTZ ウエッジのノーメッキモデル「ツアーラック」(カスタム対応)。アメリカの材料試験協会の規格に基づいたテストでは、前作のツアーラックは錆が現れたのに対し、RTZ ウエッジは錆が現れなかった。