Q:まずお尋ねしたいのですが、『RT i-FORGED ウエッジ』(以下、RT i-FORGED)は、数あるクリーブランドゴルフのウエッジの中で、どんな位置付けのウエッジなのでしょうか。
佐藤:世界のウエッジ市場では、当社の「クリーブランドゴルフ RTZ」のような鋳造ウエッジが主流なのですが、日本においては、市場の約二割を鍛造製法が占めています。『RT i-FORGED』は、そのマーケット向けに開発した、現在のクリーブランドゴルフウエッジのラインアップでは唯一の軟鉄鍛造モデルでして、当社ならではの鍛造製法で作られた、打感がやわらかくて、中級者や上級者までをカバーできるウエッジとなっています。
Q:なるほど。では、『RT i-FORGED』の商品企画はどんなところからスタートしたのでしょう?
佐藤:はい。存在感のある競合モデルも多い中で、前作(RTX DEEP FORGED 2 ウエッジ)は、クリーブランドゴルフのウエッジならではのすぐれた点や鍛造製法の特長を伝えるという点で、改善の余地があったと考えました。幸い当社には「スリクソン ZXi シリーズ」アイアンで開発した「i-FORGED」という独自の鍛造技術があります。そこで今回は、企画構想段階から、その鍛造技術を生かし、打感にこだわるゴルファーに刺さる、鍛造らしさにフォーカスして開発を進めてほしいとお願いしました。
Q:その要望を受けて、開発チームではどんなことを考えたのですか?
大久保:はい。企画チームからは、「スリクソン ZXi7 アイアン」(以下、ZXi7 アイアン)のヘッド素材に採用した「S15C」という非常にやわらかい軟鉄を使ってほしいという要望もありました。それを使って打感のよさを前面に打ち出すことを最初の課題にしました。
Q:『RT i-FORGED』のフェース面の硬度分布図を見ると、前作は比較的フラットだったのに対し、表面から内部にいくほどやわらかくなっていますね。
大久保:はい。人が感じる打感は、表面ではなく内部の硬度で決まるため、深いところをやわらかくした方が打感はやわらかくなります。この硬度分布は「ZXi7 アイアン」と同じで、「S15C」だからこそ実現できたものです。ただ、表面がやわらかいと、その分へこみやすくなって耐久性が落ちます。そこで、熱処理によってフェース表面を硬くすることで耐久性を担保しています。
Q:打感をやわらかくしつつ、耐久性の高いヘッドができたわけですね。
大久保:そうです。肉厚が薄いネックに関しても、これまでは素材がやわらかいと、何度も打っている間にロフトやライが変わってしまうという課題がありました。そこで、ネック部分に「i-FORGED」の一つである「コンデンス鍛造」を施し、ネック全体の強度を前作と同レベルにキープできたことで、やわらかい軟鉄を採用することができたのです。
Q:冒頭で、打感のやわらかさに加えて、〝中級者から上級者までをカバーできるようなウエッジ〟という説明がありましたが、そのターゲット向けに『RT i-FORGED』ではどんな仕様や機能を採用したのでしょうか?
佐藤:はい。これまでクリーブランドゴルフの歴代の軟鉄鍛造ウエッジは、〝狼の皮をかぶった羊〟をコンセプトワードにしてきました。具体的に言うと、シェイプには上級者が好むエッセンスやこだわりを反映させつつ、実際に打ってみたらやさしさを感じていただけるモデルです。それを商品化することで、ウエッジにもカッコよさを求める、あるいは、ツアーウエッジに憧れている中級者の皆さんにも使っていただけるはずだと。そのため今回は、上級者が求めるエッセンスやこだわりを、もっと突き詰めて開発した方がよいのではと伝えました。
Q:それらを突き詰めるとは、具体的にはどんなことをしたのでしょうか?
大久保:ツアープロ用クラブのクラフトマンやスリクソン・アイアンの歴代開発担当者、それに、社内のトップアマたちから意見を聞きました。そうしたことは歴代モデルの開発でもやってきたのですが、今回はCADで設計してモックアップを作り、それを皆さんと一緒に見ては修正するというサイクルに、これまでの倍ぐらいの時間をかけました。前作と並べて構えると分かりやすいのですが、前作はトウ上部にボリュームをもたせていたのを、『RT i-FORGED』では、そこをスッキリさせて、わずかですがひと回り小さくして、構えた時にシュッとしてカッコよさを感じさせる形状にしています。
Q:リーディングエッジもストレートになっていますね。
大久保:はい。実は、フェース形状でいちばんこだわったのはその部分で、より直線的に見える形状にして、ターゲットに対して合わせやすくしています。これも上級者のこだわりを実現したものです。
Q:開発の過程で特に苦心したのはどんなことでしょうか?
大久保:いまお話した形状の作り込みに加えて、製造での再現性ですね。終盤の工程である研磨では、設計で意図した形状と微妙に変わってしまうことがあります。『RT i-FORGED』の研磨工程では、スリクソンのアイアンと同様に、私たちがこだわるポイントをきちんと伝えて、実際に工場にも行って研磨されたもののチェックにも時間をかけました。バラつきが出ないよう、再現性を高めることが、苦心した点でありこだわった点でもあります。
佐藤:形状に関して言うと、バックフェースのデザインも変えました。スリクソンのアイアンや「RTZ」もそうなのですが、クリーンでシンプルなデザインがワールドワイドで好評なので、『RT i-FORGED』も、シンプルだけれど高級感があって、精悍に見えるというのをデザインコンセプトに据えました。前作までは、打感をやわらかくするためにバックフェース中央を肉厚にして、凹凸も大きくしましたが、今回は材料を変えたことで打感のやわらかさは素材で実現したので、クリーンでスッキリした形状にできました。
Q:前作までは、日本特有の芝に適応する仕様になっていましたが、その点、『RT i-FORGED』はいかがですか?
大久保:はい。今回もブレード上部を厚肉にする「逆テーパーブレード設計」で上下方向への慣性モーメントを大きくして、ボールが浮きやすい日本の高麗芝でも、スイートエリアでヒットしやすいようにしています。それと、トウ先にはしっかり肉厚を持たせて重心を少し高く設計することで、やさしくスピンがかかるようにしています。
佐藤:スピン性能については、「HydraZip」フェースや「ULTIZIP」グルーブなど「RTZ」の基幹技術を適用しています。「RTZ」との違いで言うと、適度にバンスをつけたワイドソールでラインアップを揃えている点で、バンスとソールの働きによって、刺さりづらく地面を滑るような設計にしています。ソールを見るとワイドな形状になっている一方、構えた時の顔は、いかにもやさしくて安心感のあるウエッジにはしていません。上級者がやさしいと感じるようなイメージと言っていいと思います。
Q:開発過程でもテストはされたと思いますが、完成したモデルのヒューマンテストでは、どんな声が聞かれたのでしょうか?
大久保:「打感がやわらかい」という感想は、実打テストした皆さん全員から聞かれたので、その点はとてもよかったなと思います。ほかにも、「スピンがしっかり入る」という声が聞かれましたし、形状に関しても、「シャープでカッコいい」「アドレスで、ターゲットに真っ直ぐ構えられていい」というコメントも多くいただきました。逆に、ネガティブな意見はまったく出なかったので、開発者としてはすごくいいウエッジができたと思っています。
Q:企画のコンセプト通りの、とにかく打感のやわらかいウエッジができたということですね。
佐藤:はい。『RT i-FORGED』は、打感を突き詰めたものになっていると思います。いま当社が持つ、軟鉄鍛造における打感に関する技術のベストを出せていると自負していますので、軟鉄鍛造ならではの打感を体験してみたいという方には、ぜひ体感いただきたいですね。それにプラスして、日本のコースとの相性を考えた時に、「RTZ」よりもやさしさが欲しいというお客様にはハマるはずなので、「RTZ」と打ち比べていただいてもいいと思います。