初級レベルのプレーヤーが「それを履いてはいけない!」というわけではありませんが、必要のない機能のために高額出費をすることもありません。ダンロップとしてはみなさんに、手軽にテニスと親しんでいただきたく思い、コストパフォーマンスモデルとして【スピーザ3】を、オールコート用・オムニ&クレー用・カーペットコート用の3タイプで提供しています。
テニスに詳しくない方には「オールコートにいいっていうのがあるんなら、それでいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、特定のサーフェスで、より専用製の高さをお感じいただけるスペシャルソールを備えたものが用意されているので、もしも常に同じサーフェスでしかプレーしないのであれば、ぜひ専用モデルをお選びください。
今回紹介する「カーペットコートモデル」は、他2種のような溝が刻まれていません。見た目には全体的に平坦にツルッとしていて、前足部に屈曲のための2本の横溝が刻まれているだけです。「はたしてこれで十分なのか? 手抜きじゃないか!」とおっしゃる方がいるかもしれませんが、じつはインドアのカーペットコートでは、この無溝ソールがベストなのです。
テニスシューズには必須機能として「グリップ性」が謳われますが、同時に必要なのが「スライド性」です。カーペットコートというサーフェスは、「ソールとの摩擦力」でグリップ&スライドを実現します。カーペットの上でオールコート用のような溝があるシューズを履くと、たしかにグリップ性能は非常に大きくなりますが、その反面、ストップ時に必要なスライド性がグンと低下するのです。
スライド性が阻害されると、横へ踏み込んで止まるときに捻挫しやすくなったり、前へ走って止まるときにシューズの中で足が爪先側へズレてしまい、爪を傷めてしまうこともあります。また、足だけでなく、膝へも大きな負担をかけることにもなりますので、適度なスライド性は必要であり、そのためのベストなソールパターンが、この「無溝ソール」なのです。要は、「グリップ性とスライド性のバランス」なのです。
最初にも触れましたが、いま【スピーザ3】がコストパフォーマンスが非常に高いとご好評いただいています。いったい、どこがそんなに評価されているのでしょう?
まず低価格ゾーンであるのに「競技にも十分耐える安定性能」が備えられていることが認められています。我々がこれを開発するときに考えたのは「低価格ゾーンをご購入されるお客様だって、競技される方もいらっしゃるはず」ということです。ラクに楽しくプレーできる要素を盛り込んだまま、競技でも不安がないように組み上げることを狙いました。
自動車の速度メーターに、法廷制限速度をはるかに上回る数字まで記されているのと同じことで、「使わないから、いらない」のではなく、必要なときには十分な性能搭載をするという考え方です。その意図が外見上もっともよくわかるのがソールの中足部に組み込まれた「TPUシャンク」の存在です。
通常、この価格帯モデルには、高価なTPUシャンクを採用することはありません。「そんなに強いフットワークのプレーヤーは、このシューズを履かないだろう」というわけですが、ダンロップは「より快適で、必要十分以上の装備」を目指しています。とくにカーペットコート用は、上位モデルの【アクティベクター】にはありませんので、インドアでプレーする上級競技派プレーヤーが履いても遜色がないように、この装備を選択したわけです。
同じ理由で、靴ヒモを締める最後の孔の横に「ダブルアイレット」という、上級モデルにしか装備されない「足との一体感を高めるためのヒモ孔」もあります。これは「二段ハトメ」というヒモ締めフィニッシュのためのもので、足との隙間をなくしつつ、結び近くが締まりすぎて痛くならないためのバネ効果も備えた結び方で、それが「できる!」というわけで、単なる「安いシューズ」ではなく、できる限りのサービスを低価格で!という心意気のようなものです。
詳しい製品情報はこちらからご覧ください!
https://sports.dunlop.co.jp/tennis/products/shoes/dts1055cp.html
若い方はきっと「化石を見るように」思うでしょうが、ほんの40年ほど前までは、
ラケットと言えば『木』でした。木製ラケット、ウッドラケット、ウッドフレーム……、フェイス面積は『70平方インチ』という小ささ。ちょうど人の顔くらいです(個人差はありますけど 笑)。
木製ラケットには、今のカーボンフレームとは決定的に違う部分がありました。それは『ストリングホール』、つまり糸を通すためにフレームに開けられた孔の配置が、現在のように「直線配置」ではなく、互い違いに……う〜ん……、そう「ジグザグに」開けられていました。これを『千鳥配置』と言います。
信じられない人がいたら、昔のラケットの画像を探して、確認してみてください。絶対に、間違いなく、100パーセント、ウッドラケットのストリングホールは「千鳥配置」です。だって「そうでなければならない理由」があったんですから。
今日のカーボンフレームは、カーボン繊維の並び角度が違うシートを複数枚重ねて性能をコントロールしますが、ウッドフレームの繊維は、すべて縦方法に揃っています。もしもこれにストリングホールが直線並びで開けられていたとしたら……?
おそらく、多くのラケットがストリングを支えきれず、ズッコン抜けてしまっていたでしょう。だから、木の繊維に対して斜めにストリングを通すことで、ストリングを支える必要があったわけです。だからウッドラケットの千鳥配置孔は、「必然パターン」だったんですね。
そして、昔のテニスフリーク(この言葉自体が懐かしい)が思い出すのが『飾り糸』でしょう。ストリングを張ってもらうとかならず面のいちばん上といちばん下に、細いナイロンの色糸が巻き付けられていました。みんな「飾り糸がフラットに通っているほうが『スムース』で、裏が『ラフ』ね」などと、サーブ権を決めるトスの目印のために存在するためにあると思ってたみたいですが、まったくの勘違いで、あれは「機能パーツの名残」です。
じつはあの「飾り糸」とは本来、飾りのためにあったのではなく、「打球部分のストリングを補強する」ために巻き付けられていました。その巻き付け方は人それぞれで、ストリング面の中央部分で交差する糸全部に螺旋状に巻き付けていたり、2本ずつくらいで四角を描くようにセットされたものもあり、「ここに当たればヨシ!」なんて目印のようになっているのもありました。
糸の素材もナイロンなどではなく、ナチュラルガットと同じ素材の「細いやつ」が使われていました。当時はこうした細い糸を、手術での縫合糸に使う場合もありました。これが巻き付けられていた理由は、打球時にガットとガットがズレて擦り合い、繊維がほつれて切れるのを防ぐためです。今の「スナップバック」なんて考え方など存在しません。んなことより、大事なナチュラルガットを守ることのほうが重要だったわけですよ。
現代のラケットは、フレーム構成素材のカーボンも丈夫。ストリングも「切れない」を謳い文句に台頭したポリエステルストリング。硬いものと硬いものとの組み合わせで、モジャモジャのボールを引っ叩くわけです。ボールは激しく潰されてコアボールはまたたく間に疲弊し、モジャモジャはグリグリに擦り上げられて千切り飛ばされます。
昔はきっと、ボールの寿命は長く、1つのボールを長く使うことができたでしょう。耐久性がどうのこうのという人はいなかったはず(テニスエスボーもなかっただろうなぁ)。だって、テニスは貴族のお遊びとして生まれ、近世では自宅の裏庭で遊べる……つまりそういうおウチに住んでいた上流階級のみなさまの遊戯だったわけ。ちょっとくらいお金がかるのが当然のスポーツだったんです。グリップテープなんか毎週巻き替えたって……「おまえしつこいよ」とよく言われます(笑)。
松尾高司氏
おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。
テニスアイテムを評価し記事などを書くとともに、
商品開発やさまざまな企画に携わられています。
また「ダンロップメンバーズメルマガ」のサポーターも務めてもらっています。