住友ゴムグループの(株)ダンロップスポーツマーケティングでは、2021シーズン春夏用アパレルを新規ラインナップします。ダンロップが伝統的に守り抜いたシンボルである矢じりのマーク「 Flying D」を、若々しくアイコニック・デザインとして載せたゲームウェア&プラクティスウェアの登場です。
ロゴマークは、ブランドにとってとても重要なアイコンデザインですが、頑なに固執するだけでは、しだいに面白さが失われていきます。伝統がありながらも、若々しいイメージを感じてもらうには、大胆と思えるアレンジも必要ですね。
2021春夏コレクションでは、ダンロップのシンボルを担ってきたデザインを、思い切って崩しながらも、潜在的に意識させるシンボリックなアレンジに挑みました。さまざまな意匠が混じり合い、混沌とする斬新さと、テニスというスポーツ概念が守り続けるカチッとしたイメージをいかに組み合わせるかが、2021年春夏ウェアのテーマとなりました。
まずは2021年春夏アパレルコレクションのラインナップ全体をご覧ください。各種デザインがありますが、それらのどこかに、「Flying D」=「矢じりにD」のロゴマークが隠されています。これをはっきり明確に!というのが、これまでのダンロップの格式的なロゴ扱いでしたが、グローバルアパレルとして世界に打ち出す新戦略は「モディファイ」です。
「Flying D」のロゴマークを活かし、シンボリックなデザインとして再構築しました。トッププロも闘いに着用する丸襟ゲームシャツには胸に大きく「Flying D」の先端部を象徴化しました。
いっぽうサブモデルには、背中に「Flying D」の後半部を、わざと「D抜き」にしてシンボライズ。それができるのも、「Flying D」ロゴが、伝統的に定着したイメージを獲得しているからなのです。
機能的にも優れた配慮があり、ただのシャツではありません。主要ゲームシャツの背中側、襟から背骨に沿ってベンチレーションメッシュを組み込んであります。この部分に感じる冷感はダイレクトに脳へ届き、涼しいと感じられるようになります。酷暑の中の激戦では、ほんの小さなことで相手より優位に立てる場面と向き合いますが、そんなときのことも考えて、ダンロップテニスウェアは作られているのです。
たくさんの新作が登場しますが、その中で異色の存在があります。【プラクティスTシャツ DAL-8101】には、「Flying D」の存在はなく、胸中央に見慣れないエンブレムがプリントされています。これは「ダンロップクレスト」という新しいアイコンデザインで、どこか伝統的な「紋章」のようにも見えますね。
現代テニスの発祥を、英国の発明家 ウォルター・クロプトン・ウィングフィールド少佐による「1873年12月 LAWN TENNIS ゲームの説明書+用具セット」の発売、翌年の特許取得とすれば、その「現代テニスの発祥時」と「現代のテニス」とのギャップに驚かされます。1873年といえば、日本では「明治6年」ですからギャップがあって当然ですが、なんとも想像以上です。
現代のテニスは「球技」の一つとされますが、発祥当時は「球戯」(テニス史研究家:岡田邦子さんによる表現)でした。それまでもテニスっぽい球戯はあったものの、使用するボールはまちまち……自由勝手。それを現代テニスの原型である「ローンテニス」が初めて、芝の上でも弾む「ゴムボール」を使用することを「ルール」に定めたのです。
それまでは布や革を凧糸のような紐でぐるぐる巻きにした、ほとんど弾まないボールを使っていましたが、1839年にチャールズ・グッドイヤー氏が発明した弾性ゴムを利用したゴムボールは、まさに現代球技発展への起爆剤だったのです。
ローンテニス発表当初のボールはゴムが剥き出しのゴム球でしたが、すぐに「ゴムボールを白い布か革で包む」という発案があり、視認性・耐久性・安定性などの向上が謳われ、布→フェルトとなって、現代のテニスボールへと繋がっています。
ゴムといえば『ダンロップ』。同社の起源は、1888年にジョン・ボイド・ダンロップ氏が発明した「自転車の空気入りタイヤ」で、現在の自動車タイヤの原点となっていますが、ゴムの技術を応用してテニス用ボールを開発・販売する会社『ダンロップスポーツカンパニー』が、1931年にロンドンの「セントジェームス」に設立され、テニスラケットも製造販売されたのでした。
さて、その頃のテニスコートは「オシャレさんたちの社交場」でした。球戯「ローンテニス」が英国で広まったのは、上流階級ホームパーティー(茶話会)での余興として、屋敷の裏庭で楽しまれたからです。そこから『庭球』と名付けられたわけですね。
その「いでたち」は、現代からは想像もつきません。男性はモーニングコートにシルクハット。そして女性はなんと「バッスルドレス」という、お尻の辺りがニワトリのシッポのようにツンと上に突き出しているロングドレス姿。
当時は、男女の「区別」に太い線が引かれていて、男性が楽しむスポーツに女性が参加することなどできませんでしたが、ローンテニスは「男女いっしょに同じコートで楽しもう」という触れ込みだったため、男女の交流にとって貴重な機会・場所であり、そのおかげでテニスは急激に普及することになったのです。つまり、テニス普及の原点は「ミックスダブルスにあり」だったわけですね。
ローンテニスは、ゲーム性の面白さが人気となり、すぐに競技化されます。ローンテニスが発表されて間もない1877年には、ウィンブルドンで初めての競技会が開催されます。テニスは、わずか4年で、「球戯」→「球技」となったのです。
その後だんだん競技性を増してきたテニスは、男性は真っ白い開襟シャツと白い長ズボン姿に。女性は長袖ブラウスにロングスカート+帽子という姿から、徐々に動きやすい服装になってゆきます。
1920年代に大活躍した、かのスザンヌ・ランランが両腕丸出し&膝丈の短いワンピース姿で登場したとき、テニス界は騒然としました。でも彼女が常識破壊をしたことで、エレガンス→ファッショナブル→スポーティーな動きやすさが主張されるようになり、ワンピースからセパレーツのシャツ+スコート。今日では、タイツ姿にまで変化してきています。
ちなみに「タイツ姿」……しかも「全身白タイツ」で1985年ウィンブルドンに登場した女子選手がいます。長身の美人選手「アン・ホワイト」は、初戦をこの姿で戦い、翌日に大会から着用禁止を言い渡されます。「真っ白だもん、いいじゃねぇか!」なんですが、伝統のウィンブルドンには刺激的すぎました。わずか1日の白タイツ姿ですが、じつに衝撃的でした。
いま考えてみると、テニスファッションに「古い」も「新しい」もないですね。機能素材から綿素材に戻ることはないと思いますが、襟付きポロスタイル復活、ワンピース復活だってあるかもしれない。死闘用バトルスーツもアリですが、球戯用エレガンスファッションも楽しんでほしいです。
松尾高司氏
おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。
テニスアイテムを評価し記事などを書くとともに、
商品開発やさまざまな企画に携わられています。
また「ダンロップメンバーズメルマガ」のサポーターも務めてもらっています。