住友ゴムグループの(株)ダンロップスポーツマーケティングは、テニスを中心としたラケットスポーツを展開し、長い間、ダンロップをご愛用いただいているテニスプレーヤーも数多くいらっしゃいます。そんなみなさまのために、ニューモデルや人気アイテムのモデルチェンジでは、ユーザーの期待に応えられるよう、新鮮で魅力的なコスメティックデザインを心掛けています。今回は、ときどき発売させていただいている「限定カラー」のお話を少し……
みなさんは「限定カラー」という言葉をご存知ですよね。
ダンロップではシリーズごとに統一コンセプトのコスメティックを纏わせ、その中でモデルごと、部分的にちょっと違ったデザインをあしらってラインナップを構成しています。シリーズの中には「とても多くの方が愛用されているコアスペックモデル」があり、こうしたモデルでは、たまに「限定カラーモデル」というのを発表して、ユーザーのみなさまからご好評をいただいています。
こうした企画アイテムは、それなりに古くからあったのですが、この10年間を振り返ってみましょう。もっとも多かったのが2013年の【SRIXON ダイアクラスター10.0 SF ブラック】に始まり、2015年には【SRIXON REVO S10.0 ブラック】、2017年【SRIXON REVO CS10.0 ブラック】、2019年【SRIXON REVO CS10.0 ブラック】、2020年【SRIXON REVO CS10.0 ホワイト】で、現在の【DUNLOP LX 1000】の『魔法のラケット』シリーズです。
メルマガ読者の中にも、これを長く愛用されてらっしゃる方も多いと思いますが、こうして並べてみると、モデル名に【ブラック】と入る限定モデルが多いことに気が付きます。どうしてか、わかりますか?
このモデルは、スイングスピードがゆっくりなプレーヤーが「飛んでくるボールに面を合わせるだけで、思ったところへ返ってくれる」ラケットとして、非常に多くの女性プレーヤーにご愛用いただき、細かいテクノロジーの進化を含みながらも、約20年間に渡り不動の定番モデルとして君臨しているラケットです。「女性に大人気」ということで、「ホワイト系」「シルバー系」でモデルチェンジを繰り返してきました。
ただ、これをご愛用くださる男性プレーヤーもいらっしゃり、その方たちからは「カラーリングやデザインがとても女性的。我々が使うのにふさわしいカラーも出してほしい」といったご要望をいただき、「ではっ!」ということで限定カラーとして発表したのが【ブラック系 10.0】だったわけです。
ダンロップラケット開発の根本姿勢は「お客様に満足いただけるラケット作り」です。ですから、テクノロジーの進化を取り入れるにしても、極端に打球フィーリングや打球結果が違ってしまうものは、あまりありません。愛用プレーヤーが「違和感なく自然にパフォーマンスアップ」していただけることを、いつも考えてきました。【魔法の10.0】は、まさにそうしたアイテムです。
そんな限定カラーの歴史の中で、ハッと目を留めるのが2020年【SRIXON REVO CS10.0 ホワイト】です。こちらでは【ホワイト】? なぜならばこの時のプロパーモデルが「ブラック系」へガラッとイメージチェンジしたため、逆に多くの女性プレーヤーから「白いのがいいわ!」という声が大きくなり、【限定ホワイト】となったのでした。
その後、ダンロップとなって同シリーズを引き継いだ【DUNLOP SX300】シリーズでは、2020年に【SX300 LS】【SX300 LITE】で「ホワイト×ティール」という限定カラーモデルを発売しました。そのきっかけは、「プロパーモデルはブラック×イエロー」という、いかにも強そうなコスメティックだったため、軽量で扱いやすい【LS】や【LITE】を使うお客様から「このラケットを使いたいけれど、もう少し優しい色がいい」というご要望を受け、「ならばっ!」と限定発売したのが、ホワイトベースにして、アクセントカラーには淡くて中性的な色味の「ティール」を選んだものです。
また2019年には、世界的スポーツの祭典を前に「日本をイメージしたカラーリングで!」と、日本限定で【CX JAPAN LIMITED】を発表。基本カラーの「ブラック×レッド」のレッドを活かしたまま、ブラックベースを一転してホワイトベースにしたことで、『NIPPON』らしい雰囲気をたたえることになりました。
そして2022年、最新の限定カラーを【CX200 LIMITED】【CX200 TOUR LIMITED】、さらに【CX400 LIMITED】という3モデルに対して一気に投入しました。ブラックベースの精悍さをいっそう際立たせるために、フレーム全体をブラックマットのシブさで抑え、プロパーモデルのレッド部分だけを「グロス仕上げ」の光沢で仕上げました。またイメージのレッドは、シャフト部内側にあしらっています。
2016年の全豪・全米ダブルスで優勝、2015年全英ダブルスで準優勝、ミックスダブルスでも数多くの優勝経験を持つジェイミー・マリー選手をはじめ、プロ選手がこの限定カラーモデルで戦います。ぜひ専門店にて、実物を見て・触れて、「限定カラーモデル」の特別さをお確かめください。
詳しくはHPをご覧ください
テニスが世界的に大流行した1980年代、日本でもテニスは爆発的な人気で、若者を中心に「ラケットを持っていないヤツなどいない」くらいの勢いがありました。そしてそのアッパークラスに『会員制テニスクラブでのテニスライフ』が存在していました。
ところが現在、首都圏で残るのは老舗高級テニスクラブくらいで、地方においても激減しています。若い方にはわかりにくいかもしれませんが、それはテニスを楽しむ者にとって「憧れのステイタス」だったのです。大企業のお偉いさんご夫妻がいたり、大学教授や芸術家、お医者さんや歯医者さんなど、けっこう余裕のある方々がいるいっぽうで、しがないサラリーマンでも頑張ってるテニス好きとか、いざというとき役に立ってくれる葬儀屋さん(筆者もお世話に)など、ほんとにいろんな方がいました。
そもそも「会員制テニスクラブ」というのは、賃貸ビル・駐車場・マンションなど各種運用する民間経営のオーナーが、それでも余った土地をテニスクラブとして活用するという、大地主による「余裕の産物」でした。まずまずの入会金を払い、それなりの月会費を払って、会員同士が自由にコートを使えて、余暇を楽しむ人々のための、テニスを媒介にした一つの『コミュニティ』として存在していたのです。
日曜祝日もフルに使えるのが「正会員」。バブル崩壊以前のテニスクラブの日曜日は、まさに「社交の場」で、「朝から晩までクラブで過ごす……」というのが、正会員のステイタス。午前中に出かけてプレーして、昼食をとってまたプレー。さんざんテニスを楽しんだ後、シャワーを浴びてクラブハウスで歓談。そこに賑わいを与えたのが『プレー後のビール!』ですよね!
また、入会金が必要なかったり、月会費が割安な「平日会員」などもあり、お試しサービスとしての「短期会員」や、クラブに若さを注いでくれる「学生会員」なんてシステムがあるクラブもありました。それぞれにテニスコートに空きができないように工夫して収益を上げていたんですね。
クラブ内では、なんとなぁ〜く基本ルールが決まっていて、一面4人でダブルスゲームを楽しむ交代制。だいたい朝から晩までこれが繰り返されるわけですが、もしコートに空きがあれば、ラリーや練習などもできます……でも土日では奇跡みたいなものでした。
クラブ内では、日本人が好む年功序列社会にのっとって、古株会員にはそれなりの発言力がありました。会員たちは自主的にルールや作法を決め、クラブ側はあまり口を出さないというのが自由な感じでしたが、自由なだけに仲の良し悪しが、派閥的な人間関係の複雑さを生むということもあったみたいです。
でもそこは、テニス好きにはパラダイスでした。テニスを通じていろんな職種の方や、さまざまなキャラクターと知り合うことができ、都会の乾いた日常に潤いを与えてくれる場所と時間……いわば『サロン』だったんですね。
そんなオアシスが、いまや絶滅危惧種となり、虫の息です。東京都内にあった数多くの民間会員制クラブが廃業し、旧スタイルで残るのは、わずかな超ブランドクラブのみ。その傾向は首都圏だけでなく、全国にも波及していて、伝統的なクラブが方針転換したり、施設を縮小したりしてますが、まだ首都圏よりも頑張ってくれています。
日本のテニス人口は推計で343万人(令和元年調べ)と言われていて、バブル以降、緩やかな減少傾向が続き、同時に高齢化が進んでいます。そんな趨勢のなか、会員制テニスクラブの6割近くが60歳以上という時代がやってきました。若い会員が増えません。
さらに税金問題もあり、テニスコート1面あたりの固定資産税及び都市計画税の全国平均は「約143万円」で、もし6面あれば「年額858万円」となりますが、これは全国平均であって、大都市ではめっちゃ高くなります。さらに大きな問題が「相続税問題」。相続・代替わりでの相続税は莫大であり、多くの事業者が払うことができず、施設の一部を売却して縮小、あるいは「物納」を選んでの閉鎖を迫られる状況です。とくに地価の高い都市部においては、個人事業者での経営継続など、まず不可能です。
企業を母体とするクラブでは生き残りを懸け、テニススクールの積極的運営や、ジュニアの育成など、特徴を持つことで対応。ついてはスクール用インドアコートの建設によるフル稼働化が求められ、都会の「呑気な会員族」は居場所を削り取られ、絶滅一歩手前まで追い込まれている状況です。
また、こうした「都心部でのテニスクラブ減少」に相反するように、「公営テニス場の全国的な増加」(15年間で約2倍に)が、クラブ族絶滅に拍車をかけます。テニスをする場所が増えてくれるのはとてもありがたいのですが、「小ユニットでのプレー」「時間予約制」「クラブハウスなし」という環境の変化により、多くの方と知り合う場はなくなり、予約時刻前に集まって、終わったらすぐバラバラに帰る……という、とてもドライなスタイルが当たり前となってしまいました。
これにより「テニスを媒介としたコミュニティ」は崩壊し、余裕とか触れ合いとか、思わぬ展開なんてこともなくなりました。まさに携帯電話が生まれたことで、それまではサークルに入って集まらないと作れなかった友達関係が、好きなときに好きな相手とだけ会えばいいようになった様相と完全にカブります。
もうあのような『会員制クラブ時代』は、永遠にやってこないのですね。いろんなことがあって、楽しかったんだけどなぁ〜。
松尾高司氏
おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。
テニスアイテムを評価し記事などを書くとともに、
商品開発やさまざまな企画に携わられています。
また「ダンロップメンバーズメルマガ」のサポーターも務めてもらっています。