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プロテニスの中継を観ていると、選手が入場するとき、たくさんのラケットを抱えていることに気付くはず。一般プレーヤーには「あんなに必要なわけないだろ」と思うかもしれませんが、それがプロの誇りであるかのようにも映ります。
でも、昔と今とでは、ラケットの数に違いがあります。昔は「何かあったときの予備のため」の2〜3本のラケット持ち込みでした。20年前までプロが使っていたのは、牛などの腸を原料とする「ナチュラルガット」。これは高い伸縮性能を誇り、その維持性能も非常に高いものです。そのため「切れないかぎりは」、ほとんどの選手がラケット交換をせず、1本で戦い抜いてしまいます。ラケットを交換するのは「ガットが切れてしまったとき」くらいのもの。
ところが、現代のプロ選手は5本や6本は普通です。10本くらい持ち込む選手もいます。その理由は、昔とはまるで意味が違っていて、「念のため」ではなく、「最初から使うつもり」で彼らは持ち込むんです。プロが使うストリングの素材が、ナチュラルガットからポリエステル系ストリングに変化し、ポリエステル系が主流となった現代では、彼らが1試合を戦うのには「何度ものストリング交換が必須」なのです。
もちろん、一般プレーヤーは、彼らほど「バコる」ことはないため、もう少し長く使えますし、ストリングに求める性能レベルが違います。でもプロレベルの試合では、ポリエステル系ストリングの「オイシイ時間しか使わない」ため、どんどん新しいストリングに交換していく必要があるのです。
時代劇を観ていると、主人公が10人もの悪者を次から次へと斬り倒すシーンがありますが、現実には、どんなに素晴らしい日本刀でも、2人くらいと斬り合えば、刃はボロボロになり、刀身に脂が残るために、切れ味が悪くなって使い物にならなくなると言われています。ですから、10人を相手にするには、「少なくとも5本の日本刀」を用意しておく必要があるのです。
プロテニス選手にとってのラケットも同様で、フレッシュなポリエステル系ストリングが張られたラケットの「武器としての効果」は1試合もちません。だから、ラケットをたくさん持ち込んで、次から次へとフレッシュな武器に持ち替えなければならないというわけなんです。
ただね、一般プレーヤーは、そこまで「切れ味の継続性」を求めることはしませんよ。自宅の包丁が切れなくなったら、砥石で研ぎますけど、その切れ味はある程度は持続しますし、しばらくはそれで満足。ところが料亭の板前さんは、その日の仕事を始める前に、包丁を研いで、毎日、フレッシュな切れ味をキープします。
板前にとって必要な「切れ味」の賞味期限は「1日」。テニスのプロ選手が必要な「ポリエステル系の性能」は「1試合」ももちません。包丁を研ぐのと同じように、チェンジサイドのときに、自分で新しいストリングに張り替えるわけにはいかない……だからたくさん持ち込んでおいて、『次から次へとフレッシュ作戦』を実行するしかないわけです。
たまにテレビ通販などで「切れ味が長期間持続します!」というパフォーマンスを見かけますが、「永久に研がないで使える包丁」なんてありません。ですからポリエステル系ストリングをお使いのみなさんは、できうる限り頻繁に研ぎ……じゃなかった……「張り替え」ましょう。

松尾高司氏
おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。
テニスアイテムを評価し記事などを書くとともに、
商品開発やさまざまな企画に携わられています。
また「ダンロップテニス」のサポーターも務めてもらっています。