2026/05/29

ダンロップメッセンジャー 2026 5月号 小ネタコラム

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最近では『背面股抜きショット』を、よく見かけるようになりました。ロブで頭上を抜かれた場合、以前なら背走しながらフォア側かバック側に回り込んで「ロブで返す」というのが定石でしたが、最近は、弧を描いて回り込むだけ移動距離が長くなるため、トッププロたちは、飛んでくるロブの真下を直線的に走り、フォアでもバックでもない……「後ろを向いたまま、股下から打ち返す」いわゆる『股抜きショット』を多用するようになってきています。

多くのテニスファンは、これを見せられると「最近の新技術!」とヤンヤヤンヤの喝采ですけど、筆者が初めて目にした「股抜きショット」は、1984年でした。日本で開催された『ボーデンクラシック』『ジャパンオープン』に、プロデビュー前の14歳ながら出場資格を得た「ガブリエラ・サバティーニ」が、すでにやっちゃってたんです。

大会後、日本ジュニアの最高峰『桜田倶楽部』で、彼女のコーチだったパトリシオ・アペイ氏によるクリニックが行なわれ、そこにサバティーニがデモンストーターとして連れられてきたのでした。クリニックで「ロブの返し方」についてアペイ氏は、まぁ定石どおりの技術について説明したのですが、何球かデモをやらされたサバティーニは、最後の一球で、後ろ向きのままで、ラケットを両脚の間へ向かって真っ直ぐに振り下ろし、見事に股抜きショットを決めてみせたのです。

衝撃でした……。まるでアクロバット。14歳の天才少女に、曲芸を見せられているみたいでした。当時、背面ボレーとか、股抜きボレーなどで遊んでいた筆者でしたが、背面股抜きショットだけは、何度練習してみたところで、うまくいかぬまま諦めて……40年。

いまや背面股抜きロブなど、プロはあたりまえにこなします。それどころか「背面股抜きパッシッグショット」を決めるシーンさえ見せられるように。ロブで返球するだけでなく、「いちかばちかのぉ ノールック背面パッシングショットぉ!」そして、これが見事に決まるのです。

これを見て、つくづく「いつも当たり前に相手からのボールを打ち返しているけれど、テニスって視覚情報がなくなると、手も足も出なくなるんだなぁ……」と思うわけです。自分がボールを打ち出した瞬間から、次の相手の動きを追い、フットワークの速さ、インパクトしようとするタイミングや打球位置、テイクバックの具合、そのときの身体の向き、ついには相手の視線にまで気を配り、脳がそれらを瞬時に判断して「こっちに来る!」と判断するわけですよね。

ところが「背面股抜きパッシングショット」は、すべての視覚情報の完全秘匿打法。ただし、打つ自分にとっても「どこに飛んでいくかわからない」……アウトするかもしれないし、ネットにかかるかもしれない、いわば捨て身の最終ショットです。決まれば「ミラクルショットお!」ですが、失敗すれば「あ〜ぁ、普通に返しときゃあよかったのに」と、観衆はガッカリさを詰め込んだ溜め息を浴びせかけます。

ところがです……。最近は「背面股抜きパッシングショット」を、ちゃんとコントロールして決めちゃう選手がちらほら現われ始めました。もはや意図的に「攻撃的背面股抜きパッシングショット」を放つのです。こちらの意思を完全に秘匿したまま、相手にいっさいの予測情報を与えず、いきなり両脚の間からミサイルを撃ち込んじゃうんです。リスクはデカいが、決まれば瞬時にそのポイントを決着できる最終兵器。

「予測させない」ってことは、めちゃくちゃに強い。デビュー当時のジョン・マッケンローが超変則的スタイルで、上位選手をバッタバッタと薙ぎ倒したのは「意外性の強さ」でしたが、しだいに情報は収集・集積され、みんなが慣れていきました。それでも強かったマッケンローは、スゴいですね。

そのうち、アクロバティックな「攻撃的背面股抜きパッシングショット」も、プロの世界では予測範囲内に収められ、いちかばちかの最終兵器も、対応可能な通常兵器になっちゃうのかしら?

松尾高司氏

松尾高司氏

おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。
テニスアイテムを評価し記事などを書くとともに、
商品開発やさまざまな企画に携わられています。
また「ダンロップテニス」のサポーターも務めてもらっています。