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「悪童」「あばれ者」「悪ガキ」と呼ばれた世界のトッププレーヤーがいました。その名を『ジョン・マッケンロー』。彼は自分のプレーに強い信念を持ち、打球の「イン/アウト」には徹底的にこだわりましたし、間違っていると信じる判定には、執拗に抗議したものです。
でもね……彼は「ラケットを叩き折る」なんてこと、したことはありません。そりゃベンチの上の荷物をまるごと、ラケットで振り落としたことはあります。そのベンチをひっくり返したこともあります。審判台のアンパイアに食って掛かることもしばしばでした。でも、腹いせにラケットを叩き折ったこともないし、審判台をラケットで殴り、アンパイアを脅したこともありません。
ところが昨今はどうでしょう……全世界のファンが見守るグランドスラムのような大舞台でも、自分のミスに対して、ラケットにヒビを入れるくらいでは収まらず、腹いせ紛れに、何度も何度も、ラケットがぐしゃぐしゃになるまで叩き付けるプレーヤーが後を絶ちません。手にしている1本では事足りず、わざわざバッグから別の1本を取り出して、それをめちゃめちゃになるまで叩き壊した選手もいます。
あのような暴力的な「怒りのぶつけ方」が、いったい何を残すか、自分で理解してやっているのでしょうか?まるで「自分がミスしたのは、このラケットのせいだ!」とばかりに、悔しさを道具にぶつけることでストレスを発散できるのでしょうか?それで気が晴れて、気分一新、次のプレーに臨めると思っているのでしょうか?
かつて東京では「セイコースーパーテニス」というビッグイベントがあり、そこに日本のラケットを使っている「ジョン・サドリ」という選手が出場しました。けっこう上位ランクのプレーヤーでしたし、日本メーカーのラケットを使っているということで、注目を浴びてもいましたが、試合中にラケットをコートに叩き付けて、使い物にならなくしたのです。当時、そんなことをするプレーヤーはいませんでしたから、会場は驚きにシーンとなりましたよ。彼と契約していたメーカーは、即日、彼との「契約解除」を発表しました。
日本人は「道具を大切にしなさい」と教えられながら育ちます。「自分がテニスをできるのは道具があってのことだ」という気持ちを持っています。日本では昔から、「道具は『ただの物』ではない」「道具には魂が宿る」と考えられてきました。それは、「神は日常のどこにでもいる」「あらゆるものに神は宿る」「八百万の神」という精神性から生まれた意識です。
思い通りにいかなくて、悔しいのはわかります……でもそれは何に対する悔しさでしょうか?対戦相手にですか?自分用に仕立てたラケットにですか?そんな気持ちが、いったい何のプラスになるのでしょうか。
ラケットをぐしゃぐしゃに叩き壊す選手を見て「超ハイレベルで戦い抜くには、あれくらいの闘争心がなければやっていけないんだ」と言った人がいます。でも、ラケットを叩き壊すことが「闘争心」の表われなのでしょうか?国際テニス連盟では、そうした行為に対して「罰金」を課しますが、莫大な賞金や契約金を誇る彼らには、蚊に刺された程度にも感じないような額ですから、抑止効果など見込めませんよね。
我々日本人は、「互いに敬うこと」を教えられて育ちます。日本人だけじゃない!世界は、そうした精神性によって、進歩したきたのです。
いま、筆者がもっとも心配するのは……子供が「テニスやってみたい!」という願いに対して、「あんな野蛮なスポーツをしてはいけません」と、親が許さないことです。

松尾高司氏
おそらく世界で唯一のテニス道具専門のライター&プランナー。
「厚ラケ」「黄金スペック」の命名者でもある。
テニスアイテムを評価し記事などを書くとともに、
商品開発やさまざまな企画に携わられています。
また「ダンロップテニス」のサポーターも務めてもらっています。