すっきりとしたサイドポケットの左上に、控えめなサイズの「X」のロゴが入ったキャディバッグ『GGC-X141』。表地部分の95%に、再生ポリエステルを採用した〝環境配慮型製品〟である。キャディバッグの材料に再生ポリエステルを使用するのは、ダンロップ初の試みであり、ゴルフボールやクラブを製造するゴルフギアメーカーとしても、同種のバッグを作るのは先駆けと言える。
このバッグの開発がスタートしたのは2020年。ブランド誕生から20年を迎えたゼクシオが、「リブランディング」によって、ユーザーとして想定していたエンジョイ派を年代別に2つに分け、より若い層向けに「X」ラインを立ち上げたことがきっかけだ。
「ゼクシオのリブランディングは、ゴルフギアブランドから、ライフスタイル全般をサポートするブランドに生まれ変わろうというものでした。デザインで言えば、ブランドロゴを大きく見せるタイプの製品ではなく、ゴルフが、自然の中で楽しむスポーツだという点を意識したデザインの製品を作ろうと考えました」(神谷)
また当時、スタンドタイプのバッグの需要が高まっていたが、ゼクシオのキャディバッグの国内向けモデルのラインアップにはスタンドタイプがなかった。
「世間でSDGsという言葉が使われ始め、企業にも環境問題への姿勢が問われるようなっていました。ゼクシオ初のスタンドタイプを作るなら、流行に敏感な人や環境問題に感度の高い人が使ってくれるものにしたい。SDGsの概念を取り入れるにはどうすればいいかと考えた時に出てきたのが、材料に再生ポリエステルを使うアイディアでした」(神谷)
ポリエステルという素材は、強度にすぐれ、軽いのが特長で、ハードな使われ方をするスポーツ用品の素材として非常に適している。その特長は、再生ポリエステルであっても変わらないものの、通常のポリエステルとは違いもある。通常のポリエステルが、きれいに発色するのに対し、使用済みペットボトルなどを裁断、溶融して糸にし、それを編んで繊維化する再生ポリエステルには、その加工過程で分解しきれない細かな物質が混ざってしまうため、染色してもきれいに染まらない、色ムラができるといった問題がある。
「実は、このバッグの企画段階では、真っ白や、クラブの『X-eks-』のイメージカラーであるグリーンにする案も出たのですが、再生ポリエステルではどうしても色ムラが出てしまいます。ただ、色ムラが出てしまうなら、それを逆手に取って、ムラがあることが味になる杢調にしようと考えました」(神谷)
素材のもつデメリットを、デザインを工夫することで解消した結果、「手前味噌ではありますが、きれいにできたかなと思っています」と神谷が言う、シンプルかつシックな外観に仕上がった。
落ち着いた外観とともに、「GGC-X141」を特徴づけているのが、冒頭でも述べた控えめなサイズの「X」のロゴ。いわゆるレプリカモデルなど、ロゴを大きくあしらったキャディバッグとはかなり雰囲気が異なる。これは、ゼクシオのリブランディングと関わりがある。
「様々なユーザーアンケートの結果を見ると、大きなロゴが入ったバッグが好きというユーザーもたくさんいます。一方で、ゼクシオを使わない理由として、〝ロゴが大きいから〟〝ギアブランドの製品だとわかりづらいものがよいから〟という意見も少なくありません。そのため、他のXラインのモデルのように、ロゴを小さくすることがキーポイントでした」(神谷)
とはいえ、それを実現するのは簡単ではなく、社内の他部署からは「ロゴが小さく、ゼクシオだとわかりにくいのでは」などの声が出た。
「でも、ゼクシオとしてユーザー層をもっと広げていかなければならないことを考えた時、ロゴが大きく入った商品だけでは、一部のゴルファーを逃してしまうことは、アンケート結果からも明らかでした。そのため、ロゴのサイズも含め、新しいデザインテイストで進めたいと考えました」(神谷)
ロゴが小さくて目立たないという声は、商品開発部内からも上がったという。そうしたネガティブな意見に対し、丁寧に意図を説明することで理解してもらった結果、スペースをぜいたくに使った、シンプルでスタイリッシュな、ゼクシオではかつてなかったデザインのバッグが生まれた。
ブランドとして主張しすぎることなく、よく見ればゼクシオであることがわかるデザイン。これは、同じ再生ポリエステルから作られたスポーツバッグ『GGB-X141』も同様で、ゴルフシーンだけでなく、旅行などのタウンユースにも向く。
そして「GGC-X141」の魅力はデザインだけではない。随所に、ダンロップのギアメーカーとしてのこだわりが見て取れる。
たとえば、一部に伸縮機能を持たせたショルダーベルト。これは、両肩に通して担いで歩く時にショックアブソーバーのような役割を果たし、バッグが上下動して重さを感じにくくして身体への負担を減らす。
「これは登山用のバッグにも使われている機能ですが、今回のバッグではそれをさりげなく取り入れています」(神谷)
ほかにも、ドリンクホルダーや、プロモデルなどの高価格帯モデルに採用しているのと同じ止水ポケットなども装備している。
日本のゴルフコースでは、バッグを担いでラウンドするアマチュアゴルファーは、学生以外ほとんどいない。そのため、スタンドはついているものの、実際に担ぎで使うには不向きのモデルも多い。だが、ダンロップがギアメーカーとしてのノウハウを生かして開発したこのモデルは、競技でも不自由なく使える性能と機能を備えている。
なによりスタンドタイプとしての実用性の高さを示しているのが、2.7kgという軽さ。同じスタンド付きでも、合成皮革製の非常に重量のあるモデルとは対照的だ。
「もちろん、そういうバッグもカートに載せて使えば何の問題もありません。ですが、今後、たとえば〝カートを使えるのは〇歳以上〟というルールができたり、歩きならプレー料金が安くなったりするなど、日本のゴルフ環境が変わった場合に、今、日本にある大半のスタンドバッグはおそらく担げないでしょう」(神谷)
そして、このモデルにはもうひとつこだわったことがある。それが「価格」だ。
ポリエステルには、価格が手ごろという特長もあり、それがバッグの素材として重宝されている理由なのだが、再生ポリエステルは加工コストがかかるため、通常のポリエステルにくらべ高価になってしまう。そのため、アパレルメーカーが発売している再生ポリエステル製のバッグは5~6万円のものが多い。だが、ゼクシオのこのバッグは3万3000円(メーカー希望小売価格・税込)で、新品のポリエステルを使ったスリクソンのスタンドタイプと同価格だ。
「製造コストのことを考えると、もう少し高く売りたいというのが本音です(笑)。ただ、私たちとしては、ユーザーのみなさんの手の届きやすいものにしようと、この価格に設定しました。自然の中で楽しむのがゴルフであり、自然環境を守っていくのは絶対大切なことなので、新しい材料だけでなく、再生して使えるものは使っていきたいと考えています」(神谷)
こうして開発されたゼクシオ初のスタンドタイプのキャディバッグ。神谷は、「これは、SDGsを意識した商品としてはあくまで第1弾」と言い、こう続ける。
「当社は2013年、石油由来の素材をすべて天然資源に置き換えた『エナセーブ100』というタイヤを世界で初めて発売しました。私たちスポーツ事業本部の商品開発部としても、素材メーカーなどと協力しながら、これまでとは違う発想で、新しい素材の開発を進めていますので、今後もこうした環境配慮型商品をどんどん開発・販売していく予定です」
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