ヘッド形状やデザインの変更によってモデルチェンジしたことをアピールしやすいウッドにくらべ、前作との違いが分かりにくいのがアイアンだ。さらに、前作への評価が高ければ高いほど、大きな変更を加えるのには勇気が要る。
『スリクソン ZXi シリーズ』アイアンの開発は、まさにそんな状況下でスタートした。
「前作から何を変えるべきかについて、非常に苦しんだのは事実です。ここ数代のスリクソンのアイアンは、〝スリクソン顔〟という言い方があるくらい、ヘッド形状や見え方への評価が高かったので、そこに変更を加えるのは難しい、というのが我々開発陣の共通認識でした。では、前作から性能を上げるためにどうすべきなのか? それを議論した末に出た結論は、〝正常進化〟の方向で行こう、というものでした」
と開発チームの一員である中村 崇は語る。また、商品企画を担当した大倉 侑樹も、
「前作のシリーズは、プロ・上級者をはじめ本当に多くのユーザーから支持を得ることができたために、私たち商品企画チームとしても、そこから大きくは変えるのはリスクだと考えました。そこで開発チームに対して、〝大きくは変えたくない。でも、やはりキーテクノロジーのような、ユーザーを惹きつける何かが欲しい〟という、とてもわがままなお願いをしました(笑)」
と、やはり形状ではなく中身の進化を求めたのだった。
正常進化のために、開発陣が『スリクソン ZXi シリーズ』アイアンで模索し、実現したもの。それがアイアン3モデルとユーティリティそれぞれに搭載された新技術「i-FORGED」だ。これは、特性の異なる各モデルの性能を高めるために開発された技術の総称である。
では、それぞれに搭載された「「i-FORGED」を中心に、各モデルの中身について見ていこう。
まず、国内外の男子プロにユーザーの多いハーフキャビティ「7シリーズ」の最新モデル『スリクソン ZXi7 アイアン』(以下、ZXi7 アイアン)。開発チームが何よりも重視したのは、多くのプロがこだわる打感だった。
「アイアンの形状の中でも、特にネック周りは非常に重要な部分で、構えた時の見え方にも大きく影響するため、その形状は変えたくありませんでした。でも、打感を向上させて、なおかつ耐久性は担保しなければなりません。それを考えた時に辿り着いたのが、i-FORGEDの構成要素のひとつである『コンデンス鍛造』です」(中村)
鍛造は、叩けば叩くほど硬く締まる「加工硬化」という鉄の性質を利用した製法で、通常のアイアンの場合、棒状の鉄から3回に分けて叩いて仕上げる。その際、2回目までにほぼ形を作り、3回目は「仕上げ鍛造」と言って形を整えるのが目的になるという。
それに対し『ZXi7 アイアン』のコンデンス鍛造では、回数は同じ3回で、大部分は通常と同じように仕上げるものの、ネックだけは2回目の鍛造が終わった時点でも突起を残しておき、3回目でも鍛えて突起を潰す。つまり、ネックの部分だけ潰す量を多くすることで、その分硬くなって強度が増すのだ。
「コンデンスすなわち〝濃縮〟を意味するこの技術は、当社がアイアンの製造を委託している遠藤製作所が開発したもので、当初はフェースを硬くするための製法として提案してもらいました。でも、本体とりわけ肉厚の厚い部分は、むしろ軟らかくした方が打感がよくなります。そこで、私たちから〝肉厚が薄く、強度が必要なネック部分にコンデンス鍛造を使えませんか?〟と先方に相談しました。その結果、完成したのが『ZXi7 アイアン』のヘッドなのです」(中村)
まさに画期的と言える技術とヘッド。大倉も初めてこの技術の説明を受けた時の印象を次のように語る。
「まず、同じ素材なのに部分的に強くできるというのがスゴいなと。それに、私は技術者ではありませんが、この話を聞いて、無限の可能性というか、将来的にいろいろな使い方ができるんじゃないかと感じました。〝この部分だけ硬くする〟とか、〝ここは硬くして、ここを軟らかくしたらどうなるか〟といったように」
この新技術によってネックを強化できたことで、ヘッド素材に「S15C」という非常に軟らかい軟鉄を採用することができた。それだけでも打感は向上するはずだが、『ZXi7 アイアン』では、さらに打感をよくするためにバックフェースの肉厚分布を改良した。それがi-FORGEDのもう一つの構成要素「PUREFRAME」である。
「前作とは、厚肉部の面積も形状も変えています。厚肉部をフェース上部にまで広げて、センター部分もだいぶ分厚くしました。ボールがラフに入って浮いた時に、フェース上部でヒットしても打感をよくするという目的は前作と同じですが、今回、それをさらに進化させました」(大倉)
コンデンス鍛造が可能にした軟らかい素材の採用と、PUREFRAMEを組み合わせたヘッドを試打したプロたちは、数発打っただけで「かなり違う」と前作との違いを感じ取ったという。その違いを裏付けるのが、前作にくらべ1割近く減少したインパクト時のヘッドの変形量である。
「この変形量というのは、トップブレードに対してフェース面がどれぐらい凹むかを測るものです。ウッドの場合はフェース全体をたわませて飛ばしますが、アイアンの場合、打感を考えるとフェースの一ヵ所が凹むのは好ましくありません。変形量を抑えることで、打感がボヤけず、球をとらえた感触がしっかり手に伝わってくるのです」(中村)
7シリーズの新旧モデルのバックフェース。前作(左)にくらべ、『スリクソン ZXi7 アイアン』は中央の厚肉部分が拡大。厚さも増したことで、フェースに吸いつくような打感を実現した。
櫻井 心那プロは、女子プロの中でいち早くツアーで『スリクソン ZXi7 アイアン』を実戦投入。小祝 さくらプロもすでに同モデルの使用を開始し、高いパーオン率を記録している。
女子プロがフルセットで使用するほか、男子プロがロングアイアンに選ぶポケットキャビティの「5シリーズ」。その最新モデルである『スリクソン ZXi5 アイアン』(以下、ZXi5 アイアン)もコンデンス鍛造を採用している。ただ、使われている部位はネックではない。
「意外と知られていないことですが、キャビティアイアンでいちばん強度が必要な部分が、実はトップブレードなんです。フェースを支えるのがブレードなので、ブレードが弱いとフェースを十分にたわませることができません。そこでブレードを強くするために、今回バックフェース上部にコンデンス鍛造を採用しました」(中村)
これは、後述する『スリクソン ZXi ユーティリティ』も同様だが、2回目の鍛造を終えた『ZXi5 アイアン』のバックフェースを見ると、細い畝状の突起がトップブレードからトウを回り込むように付けられている。その突起を3回目の鍛造で叩いて潰すことで、この部分の強度を高めるのだ。
「『ZXi5 アイアン』は、7シリーズよりも距離が出るようにしたいですし、やさしくしたい。それにはフェースを軟らかくして、よりたわませる必要がありますが、ブレードの強度があればそれが可能になります。それに前作では、ヒールからトウにかけて、フェース厚を徐々に厚くしていたのですが、『ZXi5 アイアン』では、トウ寄りのブレードの強度が上がったために、トウのフェース厚を薄くして、ヒールと同じ厚さにできました。つまり、トウ寄りでヒットしてもフェースがたわみ、大きく飛ばすことができるのです」(中村)
今回、フェースを軟らかくできたのには、もうひとつの新しい技術が関係している。薄くしただけでなく、これまでとは違う熱処理の方法を採用したのだ。それは、打感のさらなる向上と、たわみを大きくするという2つの目的を達成するためだった。
コンデンス鍛造と新たな熱処理方法という2つから成るi-FORGEDによって生まれた『ZXi5 アイアン』は、実際ボールスピードがアップし、すでに述べたようにプロたちが、その軟らかい打感を高く評価している。
初代モデルから中空構造を採用し、スリクソンアイアンのラインアップの中で最もやさしいモデルである「4シリーズ」。その最新型『スリクソン ZXi4 アイアン』(以下、ZXi4 アイアン)は、いったいどんな性能アップを果たしたのだろうか。
前作との大きな違いであり、『ZXi4 アイアン』のi-FORGEDの要素のひとつが、新たなボディ材料の採用である。
「前作よりも軟らかいソフトステンレスに変えました。この素材は熱処理がしやすいのも特長で、ネック部分にだけ熱処理を施すことで曲がりやすくしているので、前作より調角しやすくなっています」(中村)
「ZXi シリーズでは、ドライバーからアイアンまで、〝フィッティングのレベルを上げて、ターゲットユーザーの幅を広げよう〟というのが開発テーマでした。『ZXi4 アイアン』を調角できるようにしたのもそのためで、やさしいモデルだから調角は不要というわけではなく、必要に応じて調角することで、本当に自分に合ったやさしいクラブでプレーしていただけると考えています」(大倉)
さらに、4シリーズの特長である〝やさしさ〟にも磨きをかけた。フレームのトウ側にある縦方向の溝の幅を1ミリほど広げ、それにより生じた余剰重量をソール近くのヒール寄りにウエイトとして配分。低重心化とつかまりやすさを実現したのだ。
「前作は、やさしさを重視する方針で開発したので、重心をトウに寄せて慣性モーメントを大きくしました。それは、どこでヒットしてもそれなりに飛ぶという意味では効果的でしたが、しっかりとフェースをローテーションさせてボールをつかまえるなら、もう少し重心がヒール寄りにあるべきだと考えたのです」(中村)
低重心化には、ネック内部のフェース寄りに空洞を設け、その余剰重量をソールに配分するクリーブランド ウエッジの伝統技術「ZIPCORE TECHNOLOGY」も貢献している。
「中村が言うように、前作は慣性モーメントを大きくすることを重視したのですが、4シリーズはかなりロフトが立っているために、〝ボールが上がりづらい〟という声もありました。そこで、開発チームには〝前作よりも上がりやすくしてほしい〟と依頼したところ、スリクソンのアイアンとして初めてZIPCORE TECHNOLOGYを搭載することで、私たち企画チームの要望を叶えてくれました」(大倉)
調角しやすくなったのは、一般ゴルファーだけでなく、コンボセットで使用するプロにも朗報と言える。7シリーズと5シリーズと比較すると、4シリーズはストロングロフトでロフト体系も異なるために、前作までは組み合わせるのが難しかったからだ。それに関して、中村は次のように話す。
「今回調角しやすくしたことで、プロからの〝〇番と〇番の間に使いたい〟〝もう少しロフトを寝かせて使いたい〟という要望にも対応できるようなりました。〝もう少しやさしく上がって、距離も欲しい〟と望むプロと同様、この『ZXi4 アイアン』を提案できると思っています」。
スリクソンの他のアイアンと同様、PGAツアーのプロたちの間で高く評価されてきたのがユーティリティだ。中村いわく「驚くほどたくさんのプロが使っている」といい、契約プロはもちろん、クラブ契約フリーのプロも数多くおり、その中にはメジャー優勝経験者も含まれるという。
そんなスリクソンのユーティリティの最新モデル『スリクソン ZXiU ユーティリティ』(以下、ZXiU ユーティリティ)は、『ZXi5 アイアン』と同じi-FORGEDを搭載している。トップブレードからトウにかけて「コンデンス鍛造」を施すことにより、フェースのトウ側の厚みを従来にくらべて薄くし、軟らかくすることに成功した。「MAINFRAME」という、もう一つのi-FORGEDの効果により、フェースに食いつくような打感を実現した上、大幅な平均飛距離アップに成功した。
実は、この飛距離アップには、ソール幅を広げたことも関係している。
「スリクソンのユーティリティは、ここ何代かのモデルはややソール幅を狭く設計してきたのですが、実はPGAツアーのプロの間では、それ以前のソール幅の広いモデルへの評価がいまだに高いのです。そこで新しいユーティリティは、そのモデルと同じソール幅に設計し、〝プロにはやさしすぎるんじゃないか?〟というくらい、やさしくしました。そこに、フェースの肉厚分布や材料の変更など中身の進化が加わったことで、ボールが上がりやすくなって平均飛距離も伸びるのです」(中村)
付け加えると、重心を下げたことで下打ちにも強くなり、トップのようなミスも出にくくなった。この〝拾いやすさ〟は、一般アマチュアにはありがたいはずだ。
一方で、ハイブリッドにくらべ操作性が高いのがユーティリティの魅力。ヘッドスピードが十分に速く、球を上げるのを苦にしないプロ・上級者には、「低く抑えた球が打てる」と重宝され、直進性の高さから、「絶対に曲げたくない」という場面で投入されることも多い。『ZXiU ユーティリティ』はそんなゴルファーにも最適だ。
こうして技術の搭載と知見を生かした改良により、生まれ変わった『スリクソン ZXi シリーズ』アイアン。あらためて商品企画を担当した大倉に、『スリクソン ZXi シリーズ』とはどんなモデルなのかを語ってもらった。
「スリクソンのギアの開発には、プロからフィードバックを得るためのプロサポートチームをはじめ、商品企画チーム、開発チームという各チームが真摯に取り組んでいて、本質的なものづくりをしているという点では他に負けないと考えています。特に、この『スリクソンZXi シリーズ』は、ものづくりのための積み上げが、これまでよりワンステップあるいはツーステップ高いと感じています。中身を知ればきっとスゴいと感じてもらえるはずですし、それくらい自信がある製品なので、ぜひ実際に手に取って打っていただきたいと思います」。