『ゼクシオ 14』(以下、14)『ゼクシオ 14+』(以下、14+)と前作のフェアウェイウッドを見比べた時、一目で分かる違いがクラウンの形状だ。
前モデルではクラウンのトウからヒールにかけて、カタカナの“レ”の字型に一段高くしていたのを、NEWモデルではフラットな形状に変更した。
「それは、空力をコントロールする『New ActivWing(アクティブウイング)』を、これまでヒール側にプレート状につけていた形状から、ドライバーと同じ2つの突起の形に変えたことが関係しています。前作の形状をオーソドックスにすることで、構えやすさを追求しました」
そう語るのは、フェアウェイウッド、ハイブリッド、アイアンの開発を担当した小野 貴士。さらに、構えた時に見えるヘッドのサイズをわずかにコンパクトにしたという。
「サイズについては、一般のお客様のほかに、ゼクシオアンバサダーの青木 瀬令奈プロにも意見をお聞きしました。どちらも直打ちするクラブなので、やはり拾いやすいイメージが湧くのが大事なのですが、大きいと安心感がある半面、大きすぎるとボールを潰してしまうイメージが出ることもあります。そのため適度なサイズにすることで、ヘッドが下から入って拾いやすくしました」
と商品企画を担当した佐藤 弘樹は話す。
とはいえ、コンパクトにすることで安心感が失われてしまえば、ゼクシオらしさがなくなる。そこで小野ら開発チームでは、プロからアベレージゴルファーまで、社内外の様々なレベルのゴルファーに形状を見てもらい、そのヒアリングを基に、微妙に形状を変えた模型を何度も作成。さらにプロトタイプも打ってもらうことで、ヘッドをコンパクトにしつつ“やさしさ”は向上させるという進化を狙った。
やさしさを向上させるために、見えない部分、すなわちヘッドの内部にも手を加えた。「New CANNON SOLE(キヤノンソール)」の改良である。
「大砲型の形状自体は前作と同じなのですが、前作に比べてトウ・ヒールの厚肉部を広げました。それにより、前作よりも重心を低くできました」(小野)
そして、New CANNON SOLEのもう一つの目的であるソールの薄肉化によってたわみが大きくなり、より高初速で打ち出すことができる。
飛距離性能のアップをめざし、『14』と『14+』のフェアウェイウッドが新たに採用した構造は他にもある。「Edge Cup Face(エッジカップフェース)」がそれだ。
剛性の異なる層を交互に配置することでフェースとボディをたわませボールスピードを高めるダンロップの独自技術「REBOUND FRAME(リバウンドフレーム)」。その効果を引き出すために採用してきた構造がカップ状のフェースだった。そのフェースを今回、クラウン側は折り返しを極力短くし、ほぼエッジ上に折り返し部分が来るように改良した。
「折り返し部は、リバウンドフレームの“剛”の部分に当たります。そこに溶接部を持ってくることによって剛性が強化され、剛がさらに剛になります。それにプラスして、溶接部の後ろは1枚にできるので、前作に比べ肉厚を薄くしました。つまり、“軟”だったところを、さらに軟にすることができました」(小野)
剛と軟のメリハリを強くし、REBOUND FRAMEを進化させたことで、ボディの変形とフェースのたわみが大きくなり、さらに初速性能が上がった。
フィーリングの部分では、『14』『14+』のフェアウェイウッドでは打球音も前作から変更した(※ハイブリッドも同様)。
「商品企画チームからは、“とにかく打球音にはこだわって欲しい”と常に言われていまして(笑)。前作が“カーン”という感じだったとすると、『14シリーズ』では“キーン”という音に変えました」(小野)
「より飛んでいる感じや爽快感というのは、打球音でもゼクシオがずっとめざしてきたことです。最終的には“ゼクシオサウンド”と呼ばれる音の幅に収まるようにするのですが、今回は、よりクリアな音になったと思います」(佐藤)
ここまで述べてきたフェアウェイウッドの進化、特長は『14』『14+』に共通するものだが、ターゲットが違う両者には当然差異もある。
「まず、#3、#4、#5という長い番手に関しては、構えた時のヘッド形状が、『14』は“つかまりのよい顔”をしています。それに対して、『14+』はトップラインがまっすぐで、“ほどよくつかまる顔”にしていて、そこが両者の違いです。前者がゼクシオならではのやさしさを求めるゴルファー、後者が、より強く振りたいゴルファーを想定しているためです」(小野)
クラブトータルで見ても、『14』と『14+』とでは、シャフト、グリップのほか、クラブ長、バランスなどをそれぞれのターゲットに合わせて差別化している。
続いて『14』と『14+』のハイブリッドだが、New ActivWingの形状変更と、それに伴いフラットになったクラウン、Edge Cup Faceの初採用といった改良・変更点はフェアウェイウッドと同じだ。
また、クラブトータルとしてそれぞれ違うターゲットを目標に開発したのも同様だが、ヘッド内部の構造はフェアウェイウッドと異なる。前作と比べると、トウ側とヒール側の大砲型の厚肉部がフェース方向に出ている。これは前作に搭載したCANNON SOLEを改良したもので、新たに「WING CANNON SOLE(ウィングキャノンソール)」と名付けた。
「厚肉部をフェース側に出すことによって、今までよりもさらに低重心になる効果が生まれます。そうすると、直打ちする際の打点のボール初速がアップし、飛距離が伸びるのです」(小野)
この新構造と、Edge Cup FaceによるREBOUND FRAMEの進化により、飛距離性能のアップが期待できるのだ。
また、フェースに関しては、『14 シリーズ』のウッド系に、ゼクシオとしては初めて精緻なミーリング加工を施し、ウェットな状態など悪条件下でもギア効果が著しく落ちるのを抑えているが、ハイブリッドにはさらにフェース中央にスコアラインを採用した(※フェアウェイウッドも同様)。
「ハイブリッドはロフトがある程度付いているので、構えやすさとスピン量のバランスも考えながらスコアラインの設計をしています。特に『14+』の場合、ダークフェースにしているので、スコアラインが見えないと難しそうに見える一方で、ハッキリしすぎても逆に構えにくいという意見が出たため、グレーに仕上げてバランスを取っています」(佐藤)
スコアラインの本数は、番手が上がるほど増やし、インパクトでボールにしっかり食いついてスピンがかかり、ボールを上がりやすくしている。
そしてハイブリッドには、『14』『14+』ともに、新たに#7がラインアップに加わった。番手を増やした理由について、佐藤は次のように説明する。
「やはりトレンドが一番大きな理由です。ハイブリッドに対して食わず嫌いの方が少なくなってきたのと、ロングアイアンよりもショートウッドやハイブリッドの方がやさしく球を上げられるため、ハイブリッドを組み合わせるセッティングが多くなってきていると感じています。その点、ゼクシオは、フェアウェイウッドとハイブリッドの球の上がりやすさでは伝統的に定評がありますから」
さらに、ラインアップを拡充したのにはアメリカ市場も関連している。佐藤によれば、アメリカでは特にアベレージゴルファーにゼクシオのフェアウェイウッドとハイブリッドに需要があるという。
「中でも、ゼクシオのハイブリッドは、フェアウェイウッドとともに球の上がりやすさという点を体感していただいていて、お客様から好評いただいております。アメリカの販売サイドからの要望も強く、番手の追加は日本でも有益だろうと考えました」(佐藤)
ただ、構えてみると分かるが、ショートハイブリッドではフェースがウエッジのように上を向いているように見え、開発の難しさもそこにあった。
「ロフトが寝てくると、フェースがネック側に入ってきて接点がえぐれたように見えてしまいます。フェースとネックがスムーズにつながる形状にするのはかなり難しくて、これもかなり模型を作りました」(小野)
形状に加え、小野たち開発チームはマスキング(フェースとクラウンの境界線)についても試行錯誤を重ねた。
「前作ではネック全体を塗装していたのですが、#7のようにロフトが寝た番手の場合、ネックの塗装とマスキングとのつなげ方が難しくなります。いろいろ試した結果、それならばハイブリッドのネックは塗装無しでいこうという結論に至りました」(小野)
そうして完成した#7の顔は、上がりやすさと構えやすさを両立することに成功している。
フェアウェイウッドとハイブリッドは、『14』と『14+』とで形状面などで共通点が多いことはここまで述べた通り。だが、アイアンは両者の違いがはっきりしている。
ウッドと同様、ボールが上がりやすく楽に飛ばしたいゴルファーをターゲットにした『14 アイアン』。分割したボディとフェース、それにウエイトという4ピース構造は前作を踏襲しているが、前作との最大の違いが、フェースの材料に、ドライバーと同じ新素材「VR-チタン」を世界で初めて採用したことである。
「反発が高く、かつ粘りのある素材を使うことで、フェースが従来よりも高強度になります。強度が高まったことでフェースのトウ寄りの部分を“肉抜き”することができ、余剰重量を作ることができました」(小野)
また、余剰重量を出すために、ネックの外径もこれまでより細くしたことに加え、ボディのキャビティ部分をヒール側に広げた。
「アイアンはウッドよりも余剰重量を出すのがかなり難しく、削る場所がないことに加えて、削った結果、形状が変わって構えにくくなることもあります。なので、ゼクシオらしい構えやすさを維持しながら余剰重量を捻出するのは苦心しました」(小野)
上記の3点から創り出された余剰重量をヘッドのトウ下に配分することでヘッドの重心をセンターへ寄せ、実際の打点に近づけることでボールの初速を向上させた。また、ボール初速向上のため、今回はさらに工夫がなされている。
「分割したボディを重ね合わせると、ソール近くにL字型の溝ができるのですが、今回はその位置を前回よりかなり下げました。本当にソール際ギリギリまで攻めたという感じです」(佐藤)
それにより、L字型の溝の付近では前方のボディは剛性が低くなり、フェースはより大きくたわむ。それにプラスして、溝より後方の剛性の高いボディが、たわんだフェースのパワーをしっかり受け止めることで初速がアップするのだ。
一方、よりヘッドスピードが速く、打ち込みたいゴルファー向けの『14+ アイアン』。ボディ+フェース、ウエイトの3ピース構造は前作と同様だが、ボディとフェースをたわませて初速を上げるアイアン版REBOUND FRAMEはたしかな進化を遂げた。
「『14+』のボディ内部は、ソールの上に重量物が浮いているような形になっていて、その間に空洞があるのですが、その空洞を下方向に広げてソールの肉厚をこれまでより薄くしました。それによって“軟剛”の“軟”の部分であるソールを大きくたわませ、初速性能を上げるという技術を盛り込んでいます」(小野)
また、ネックの外径を細くするとともに、ボディのキャビティ部分をヒール側に拡大して余剰重量を創出したのは『14』と同じである。
そして、スリクソンのアイアン開発で培ってきた技術を随所に取り入れているのも『14+』の特長だ。
「『MAINFRAME(メインフレーム)』は、コンピューターシミュレーションによって、フェースの肉厚について“ここは薄くしても支障がない”と解析した部分を薄肉化し、そこから余剰重量を作り出す技術で、『スリクソン ZXi5 アイアン』で開発したものを応用しています。その技術を活用して、重心を低く、センター寄りに設計しています。また、ソフトステンレスのボディは『スリクソン ZXi4 アイアン』で採用したもののアレンジで、今回は調角もできるほど、やわらかくなっています」(佐藤)
さらに、小野たち開発チームには、『14』と同様、重心をできるだけセンター寄りに設計したいと考えた。ただ、重心がトウ方向に移動すると、ヘッド単体ではつかまりが悪くなるかもしれないという懸念があった。
「そのため、クラブ全体として、ほどよくつかまるよう、シャフ開発チームと連携して、これまで以上にシャフトのテストも実施しました」(小野)
そうして完成したのが、手元重心化による飛ばしのためのテクノロジーを反映した藤倉コンポジットとのコラボシャフト『SPEEDER NX DST for XXIOカーボンシャフト』。ウッドと同様、ヘッドが暴れることなく振り切ることができる。
『ゼクシオ 14+ アイアン』のボディ。下部の空洞(赤い囲み)を下方向に広げソールを薄肉化したことでソールのたわみが大きくなった。また、キャビティ部分をヒール側に広げ(黄色い囲み)余剰重量を創出。軽量化につなげた。
クラウンの形状を除けば、フェアウェイウッドとハイブリッドの外観は前作からの大幅な変更はないと言えるだろう。だが、フェアウェイウッドの形状を決める過程で、プロをはじめ多くのゴルファーの意見を参考に何度も模型を作成したように、性能が進化しても違和感なく構えられるよう、細部には様々な改良、変更を加えた。それはハイブリッドやアイアンも同様だ。
「『ゼクシオ 14 シリーズ』は、ドライバーからアイアンに至るまで、構えた時の形状に本当にこだわったので、まずは構えてみていただきたいという思いがあります。そして、構えて印象がよければ、次は実際に打ってみて、他との違いを感じていただきたい。さらに、打つと当然“音“が発生しますが、それもゼクシオは他とは違います。そうした行為のすべてを通して新しいゼクシオを感じ取っていただきたいですね」(小野)